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酪農女性サミット2025開催! 全国から酪農を頑張る方々が集まり交流②

JOURNAL 2025.12.17

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

3名の女性酪農家が語る、それぞれの挑戦や思い

 基調講演に続き行なわれたトークセッションでは、現場で活躍する酪農女性3名が登壇。「酪農女性のモチベーションUP講座!〜わたしらしく酪農を続けるヒント〜」と題して、それぞれの活動の様子をシェアしました。

トークセッション1人目:永谷万里菜さん(北海道中標津町)

 トップバッターは、北海道中標津町で実家の牧場の後継者として活躍する永谷万里菜さん。幼少期から牛が大好きだったという永谷さんは、大学卒業後にカナダへ酪農留学。「自分の境遇はとても恵まれている」。多様なバックボーンを持つ、世界各国の人々と触れ合うなかで、実家の牧場があることのありがたさを実感し、就農を決意しました。

「女性」というフィルター

 就農後、彼女が直面したのは、「経営は男性がするもの」という根強い固定観念でした。 

 「女性が中心となって経営することへの価値観が、まだ浸透していないと感じました」と永谷さん。しかし、彼女はそこで諦めるのではなく、「当たり前に一戦力として活躍したい」と前を向きます。「自動的に長男が継ぐのではなく、やりたい人が挑戦できる酪農業界にしたい」。永谷さん自身、それを体現していくことを目指し日々営農しています。

「自分は自分」ブレずに進む

 実績を積んできた両親を持つ後継者ならではの胸の内も吐露されました。「あそこのご両親はちゃんとしている」という周囲の視線や期待。しかし永谷さんは「そんな時こそ、自分が自分らしくできることをただひたすらにやっていく」と語ります。誰かと比べるのではなく、自分が目指すものに向かってブレずに頑張り続ける。そうすれば、周囲はきっと応援してくれる。その力強いメッセージは、同じような境遇に悩む多くの後継者達の背中を押しました。

トークセッション2人目:伊藤沙智さん(北海道苫前町)

 続いては、本誌『Dairy Japan』の付録「酪農学習シート」でおなじみの伊藤沙智さん。苫前町で酪農後継者として活躍する伊藤さん。元々は内向的な性格で、絵を描くことは好きだったものの、描いた絵を人に見せたいとも思っていなかったと言います。

 転機は実家の牧場に就農した際、地域の仲間が温かく迎え入れてくれたこと。女性同士の勉強会に参加し、学んだ内容をイラストでまとめてシェアするうちに、「伝える楽しさ」に目覚めていきました。

自分のために描く

 日々忙しい酪農を続けながら、「酪農学習シート」を作成することは、大変であることは想像に難くありません。

 続ける秘訣として伊藤さんは「誰かのためではなく、自分が本当に知っておきたいことをまとめているだけ」と言います。作成のルールはシンプルで、「忘れることを前提に作る(作業でつまづいたら見返せばいい)」「難しくしない」「参考文献(Dairy Japanや勉強会の資料)を入れる」こと。

 作業が煮詰まったら一旦すべて見えないようにして、まったく違うことをしてリフレッシュするなど、自信のモチベーションを保つ方法も紹介されました。

仲間がいると挑戦のハードルは下がる

 「読者の方から『ファイリングしています』と声をかけていただくことも増え、自信につながりました」と語る伊藤さん。身近に話せる仲間がいれば、新しいことへのハードルは下がります。酪農女性サミットも、参加者にとってそんな「きっかけの場」であってほしい、ぜひ、話せる人は積極的に話しかけてみてほしいとまとめました。

トークセッション3人目:那須美由紀さん(北海道常呂町)

 最後は、幼稚園教諭から結婚を機に酪農の世界へ飛び込んだ那須美由紀さん。現在は後継者を迎え、ともに営農を続けています。就農当初は「何がわからないのかもわからない」状態だった那須さん。ある日、子牛に哺乳をしているとき、子牛がミルクを飲むリズムと、搾乳機のパルセーターのリズムが一緒であることに気づいたと言います。「すべては牛から始まっている。すべては牛から教えてもらえば良い」と気づいた瞬間、視界が開け、仕事を楽しむスイッチが入ったと言います。

「泣いても1日、笑っても1日」

 那須さんは自信の牧場での苦労や学びを共有し、さらに、自信が「楽しく仕事をする」ための取り組みも紹介しました。

 家族経営で完結しがちな酪農だからこそ、外とのつながりが重要だと考えた那須さんは、地域で「牛屋のかあちゃんの会」を結成。「牛舎に行くのを楽しくしよう!」と明るい色のツナギを揃えたり、視察や勉強会を行なったりと、楽しく酪農を続けるための環境づくりに尽力してきました。現在は、夢だった「にっこりハウス」を建て、憩いの場や学びの場として開放している那須さん。

 後継者とともに歩む今、新たな悩みは尽きないものの、酪農を通じて得た多くのつながりに感謝し、これからも笑顔で牛と向き合っていくと語りました。那須さんは日々の心持ちとして、「泣いても1日、笑っても1日。自分の機嫌は自分で取るんです」と力強いメッセージを送りました。

PROFILE/ 筆者プロフィール

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。


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