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長く活躍する牛を育てる「長命連産」の考え方

JOURNAL 2025.11.12

 前回の記事で触れた「生涯乳量」に引き続き、「長命連産」についても考えてみましたのでまとめてみます。

 「長命連産」は、単に牛の寿命を延ばすことだけを目指すのではなく、高い生産性を維持したまま分娩を繰り返し、経済的な利益を生み出し続ける牛群を作るという、実は結構高度な飼養管理だと考えます。 

長命連産は何のため?

 一つ目は、後継牛の確保です。優秀な母牛が長く活躍し、多くの娘牛を産むことで、牛群を維持・改良していくための後継牛を安定的に確保できます。 

 ​二つ目は、販売牛での利益です。 後継牛の頭数を確保できているならば、F1や和牛ETを活用して子牛を販売することで収益源とすることができます。 ​つまり「長命連産」は、分娩を活用して、1頭当たりの生涯収益を最大化し、牧場経営を安定させるための戦略です。 

長命連産を実現するには、以下の三つが必要です。

①​生産性(産乳性):牛群平均より乳量が高い状態の牛を残す。

②​ 疾病繁殖性:授精、受胎がスムーズに進み、疾病が少なく、安定して管理できることが重要。

 ③強さ(耐久性):これが最も重要だと考えます。 病気への抵抗力、ケガのしにくさ、環境の変化への適応力、暑熱寒冷耐性、ストレス耐性など、耐久性が重要です。 ​いくら乳量が多くても、耐久性がなかったりすると、繁殖障害を起こしたりすれば、治療コストがかかり、次の分娩に進むまでに、廃用にせざるを得なくなる恐れもあります。 

そこで、長命連産を実現するための牛群作りに必要なのが、観察力、知識力、技術力です。

 牛群作りには必要なポイントを紹介します。

​①牛群作りのための改良: 優れた「耐久性」を持つ牛群を作るためには、日頃の観察力が重要となる母牛選定、いろいろな知識力が必要な精液選定が重要になります。 個人的には、精液選定で注目したいのが、扱いやすさを表す「気質」と、近年の問題でもある「暑熱耐性」があります。

 「気質」は、扱いやすさを表すので、日々の管理のしやすさや、精神的な落ち着きなど、牛達も作業者にも関係する指標です。 

 ​「暑熱耐性」は、遺伝的に暑さに強い能力を数値で表します。 近年の夏の猛暑は牛にとって最大のストレス要因の一つで、暑さで食欲が落ち、乳量低下や繁殖成績悪化が深刻な問題です。 現代の気候変動に対応するために不可欠な一つの選定基準になると考えます。

​②搾乳期以外の管理が重要です。
哺育期​の管理
 これまでの投稿で説明してきたように、非常に重要です。 ここでの管理がすべての元になります。

育成授精期
​ 適切な栄養管理をすることで、計画どおり授精、受胎につながります。 思いどおりの牛群作りには、この時期の管理が大きく関係します。 ​

初産分娩前
​ 初めての分娩は牛にとって大きな負担です。 分娩前の栄養管理が、分娩後の乳量、繁殖疾病や子牛の健康に影響します。 きめ細かい観察が必要です。 

乾乳期
 ここ管理が搾乳期の成績を左右します。 母牛の健康はもちろんのこと、子牛の健康にも大きく影響するので、「生涯収益」を決定づける時期になります。

 長命連産を実現するには、経営目標数値と計画乳量の達成は必須として、そのうえで、搾乳期以外の管理が重要です。 それらを達成するためには、観察力、知識力、技術力を養い、未来の牧場の在り方を想像しながら、日々の作業を積み重ねることが大切です。

PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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