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初乳中の菌コントロール

JOURNAL 2025.10.30

宮島 吉範

宮島 吉範Yoshinori Miyajima

 初乳の中にたくさん菌がいると非常に良くないということは、前回の写真を見て理解していただけたと思います。菌がたくさん含まれる初乳を子牛に与えないようにするためには、どうすれば良いのでしょうか? 理想は「綺麗なバケットで、綺麗な初乳を搾った瞬間に子牛に飲ませる」ですが、作業上、なかなかそれは難しいですよね。

 そこで登場するのが、パスチャライザーを用いた消毒です。皆さんはパスチャライザーを使っていますか? 初乳だけでなく、移行乳、廃棄乳を農場で有効活用するためには、とても便利な道具です。

初乳をバケットで搾った状態を表したのが図1になります。どんなに気をつけても無菌で搾ることはできないので、その中には抗体や母牛の免疫細胞とともに、細菌もある程度混在しています。この菌を減らすために、初乳を60℃30~60分で加熱します。ちなみに温度はしっかり管理しないといけなく、数度高いだけで抗体はほとんど死んでしまい、初乳の性状が大きく変わってしまいます。逆に低いと、菌をしっかりと減らすことができないので、定期的な温度確認は重要な仕事です。

 余談ですが、以前パスチャライザーを使用している農場で下痢をする子牛が爆発的に増えたことがありました。いろいろと調査した結果、農場の方が早く初乳を与えたいために、60℃になった瞬間にスイッチを切っていたことが原因でした。(冷ますのには少し時間がかかりますので)そんな苦い思い出もあります。

 きちんとパスチャライズした後が図2です。ここで重要なのは、パスチャライズをしても菌はゼロにはならないということです。図1に含まれる菌量が多くなればなるほど、図2の菌の数も増えます。

Screenshot

 この図は、とても上手に菌の数を減らせたケースです。菌も十分に減っていますが、ここでは母の免疫細胞(T細胞)なども熱で死んでしまいます。抗体は少しだけ減少していますが、十分な量と菌に対する抵抗力が存在してくれています。

 パスチャライズして適温まで機械が温度を下げた状態になったら、なるべく早く初乳を与えましょう。そうでないと、図3のように完全に死にきれなかった菌がその中で増殖してしまい、菌がたくさんいる初乳に逆戻りしてしまうことがあります。これでは、なんのために労力をかけたのかわからなくなってしまいます。

 もし、農場で乳房炎のオンファームカルチャー(細菌培養)などをされているようなら、子牛に飲ます直前の初乳を培地に塗ってみると良いでしょう。そのように子牛に綺麗な初乳が与えられているかを適期的にチェックされている方もいます。

Screenshot

 初乳のなかに菌がたくさんいると、抗体の吸収効率が落ちます(図4)。初乳を飲ませるときは、菌の存在を強く意識して飲ませてみましょう。

PROFILE/ 筆者プロフィール

宮島 吉範

宮島 吉範Yoshinori Miyajima

千葉県の一般家庭に生まれる。麻布大学 栄養学研究室を卒業後(有)あかばね動物クリニックに入社し獣医師として25年。現在は、乳牛・肥育牛(主に交雑種)・繁殖和牛を担当する。乳牛においては診療・繁殖検診・搾乳立会・人工授精・受精卵移植・コンサルティングなどを行なう。趣味は妻との居酒屋や蕎麦屋巡り。

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