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『生涯乳量』を増やすには? 分娩間隔と泌乳持続性から考える牛群管理戦略

JOURNAL 2025.10.31

 私は就農初期から現在までのなかで、常に経営を考えてきました。就農当初は居抜きで引き継いだ牛群の1頭当たりの乳量が6500㎏/年だったこともあり、分娩間隔は365日を目指し、産次も連産を目指して、いわゆる「長命連産」の経営をしていました。

長命連産は何のため?

 ここで改めて、長命連産について考えてみます。一般的に長命連産が重視されてきたのには以下のような理由があります。

  1. 分娩感覚を短く保ち、継続して分娩を迎えることにより、分娩後の泌乳ピークを効率よく繰り返す。
  2. 後継牛の安定確保+販売などの副収入。
  3. 産次数が多いほど、育成に欠けたコストを長く回収できる。利益として得られる期間が長くなる

​ これらは「生涯利益」を増やすため理論とされてきました。

当牧場の分娩感覚に対する考え方

 しかし現在は、うちの牛群の乳量は1万㎏に近づいてきていることから、分娩間隔が380日→395日→410日→425日と段々長くなってきています。

​ 近年は牛の改良が進み、泌乳ピークを過ぎた後も乳量がなかなか落ちない「泌乳持続性」の高い牛が増えています。​研究などでも指摘されていることとして、泌乳持続性が高い牛は、無理に分娩間隔を詰めなくても、乳量が下がらずに持続します。
 このような牛達は、むしろ分娩間隔を延ばした方が、繁殖や分娩に伴うストレスが減り、健康状態が維持され、結果として生涯の総乳量(生涯生産性)が高まる可能性があります。
 うちでは、乾乳期間を60~70日にしたいこともあり、乳量が下がりやすくするために、授精開始を遅らせて、ストレスなく乾乳にする工夫をしています。

​ つまり、すべての牛達に「分娩間隔365日」という物差しを当てるのではなく、「この牛は乳量が増えそうなので、無理に授精せずに授精開始日を調整しよう」​「この牛は乳量が伸びていないので、早めに授精開始しよう」​というように、個体の能力(とくに泌乳持続性)を見極め、その牛の生涯利益が最大になるような管理(分娩間隔)を選択することが、現代の酪農経営において合理的だと考えています。

牛の能力を最大限に引き上げることが重要

 「長命連産」は良いことですが、それに固執するあまり、初妊牛を売り、産次を重ねた牛達を残す選択をしたり、牛達の能力を活かさず乳量を自ら抑えたりするのは得策ではないと思います。
 ​分娩間隔や産次はあくまで管理指標の一つと捉え、最終的には「その牛の能力を最大限に引き出し、生涯でどれだけ利益をもたらすか」という視点で個体管理を考えると、より経営の実態に即した合理的な判断につながるのではないでしょうか。

 就農初期と比べて、現在は分娩間隔や乳量など短期的な指標ではなく、管理乳量や補正乳量など、より1頭の牛を長期的に考え、生涯乳量を最大化できることを考えています。
 しかも生涯乳量ならば、経営形態などを問わず農場ごとに比較しやすい指標にもなるのではないかと思います。目標の生涯乳量に到達しているのであれば、分娩間隔が長くても、牛群産次が低くとも関係ないと考えることができます。
 最終的な経営目標が「牛の個体別利益の最大化」であるならば、生涯乳量や生涯利益(そこからコストを差し引いた利益)を評価するアプローチは、非常に重要だと考えます。

PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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