
前回は、うちでの暑熱対策として、ナイアシンの使用を紹介しました。ほかにも牛の暑熱対策における一般的な対策として、重曹(炭酸水素ナトリウム)給与があります。私も活用しています。
今回は、その効果について紹介します。
なぜ暑熱対策に重曹が有効なのか?
牛が暑さを感じると、体温を下げるために呼吸が速くなります。そうなると、よだれの量も増えます。
実はこの「呼吸の増加」と「よだれの増加」二つの現象が、牛の体内で深刻な問題を引き起こします。
1)唾液中の緩衝物質の喪失
牛の唾液には、第一胃(ルーメン)内のpHを正常に保つための重要な物質「重炭酸塩」が含まれています。よだれを大量に外に流すことで、この大切な緩衝物質が体外へ失われてしまいます。
2)血液の酸性化
速い呼吸によって、血液中の二酸化炭素が過剰に排出されます。これにより血液がアルカリ性に傾き(呼吸性アルカローシス)、体はバランスを取ろうとして尿中に重炭酸イオンを排出し、結果的に血液の緩衝能力が低下し、アシドーシスに陥りやすい状態になります。
これらの結果、第一胃(ルーメン)内のpHが酸性に傾き「ルーメンアシドーシス」の状態を引き起こしやすくなります。「ルーメンアシドーシス」になると、エサの消化を助ける微生物の活動が著しく低下し、食欲不振、消化不良、下痢などを引き起こし、乳量や乳質の低下、さらには繁殖成績の悪化につながります。
重曹給与は、その失われた緩衝物質を補い、ルーメン内のpH低下を防ぐためのサポートになります。
重曹給与による具体的な効果
1)ルーメン内環境の安定化
重曹がルーメン内で緩衝材として働き、pHの急激な低下を防ぎます。これにより、ルーメンアシドーシスの予防・軽減につながります。
2)飼料採食量の維持・改善
ルーメンの環境が安定することで、消化機能が正常に保たれ、暑さによる食欲不振を和らげ、飼料の採食量低下を防ぎます。 採食量が維持され、消化が正常に行なわれることで、乳量の低下を防ぎます。とくに、ルーメン内の酢酸産生が安定するため、乳脂肪率の低下抑制に効果的です。
過剰給与に注意
重曹はナトリウムを含むため、過剰に給与するとナトリウム過剰症や、逆にアルカリ性に傾きすぎる「アルカローシス」を引き起こす可能性があります。また、ほかのミネラルとのバランスも重要です。
重曹給与は、もっとも実行しやすい、有効な牛の暑熱対策です。暑熱ストレスによるルーメンアシドーシスを防ぎ、牛の健康と生産性を守るために重要な役割を果たします。
しかし、あくまでナイアシンと同様に暑熱対策をサポートする方法です。今まで紹介した暑熱対策と組み合わせて総合的に対策することで、今年の暑さと、これからの未来の予想される酷暑を乗り越えましょう!
これからの日本の気候を考えると、牛達の健康を守るためには、今の対策だけでなく、将来を見据えた対策が、常に求められます。私も常に考えながら取り組んでいきます。
私が使用しているのはこちらです。