
『Dairy Japan 2024年11月号』P.62「初産分娩までが未来の経営を左右する No.9 =育成牛の粗飼料と給飼=」より
育成牛は、あなたの農場の将来の牛群です。ですから育成管理の改善は、経営基盤の強化と言えます。
育成管理の改善に軸足を置いた「初産分娩までが未来の経営を左右する」と題したシリーズで、海田佳宏さん(株式会社 清流酪農サービス・代表)が詳しく解説してくださいました。
今回は、その9回目です。以下、抜粋・要約。
育成牛はどれだけ食べる?
育成牛の乾物摂取量の予測は諸説あり、過去から何度もアップデートされてきました。研究者は、より精度の高い乾物摂取量の予測式を開発しています。
『NASEM 乳牛栄養要求-第8版-』(日本語版はDairy Japan社刊)では、二つの乾物摂取予測式が紹介されています。それらの回帰式は省略しますが、一つ目は、成熟体重と実体重から乾物摂取量を予測しています。育成牛の乾物摂取量予測は、ほかにもいろいろな推定が提供されていますが、栄養計算をするためには必要不可欠です。体重別あるいは月齢別で覚えておくと問題解決に役立つので、信頼できる基礎数字を把握しておきましょう。
NDFは採食量に関与
『NASEM 乳牛栄養要求-第8版-』が提唱している、もう一つの乾物摂取量予測式は、実体重・成熟体重に加え、飼料中のNDFが含まれています。採食量推定に誤差が生じる理由として、NDFの影響が大きいことを示唆しています。NDFは「中性デタージェント繊維」と呼ばれ、植物の細胞壁由来の繊維性成分を示しています。NDFは粗飼料など繊維質の豊富な飼料に多く含まれています。
良質な粗飼料はNDFが低く、消化性が高い傾向にあります。刈り遅れの粗飼料はNDFが高く、消化性が低い傾向にあります。この刈り遅れの高NDFは消化されるのに時間がかかるので、採食量が低下するのです。
長いままの粗飼料給与
写真1(タイトル写真)は、グループ管理を実施している畜舎で、長いままの粗飼料が給与されている飼槽です。この飼槽側に置かれている粗飼料は育成牛が採食中の状態で、給飼通路側に置かれているものは口が触れていない状態です。つまり、飼槽側のものは採食後、通路側のものは採食前の状態です。この粗飼料を拡大してみます。

写真2が採食中、写真3が採食前、の長いままの粗飼料です。
よく見ると採食中の粗飼料(写真2)は茎部が、採食前(写真3)は葉部が多く含まれています。
このことから育成牛は、給与された長いままの粗飼料を巧みに選択採食(選び喰い)して、柔らかい葉部を食べ分けていることが推察されます。ですので、飼槽側の飼料は採食中ですが、実は「食べ残し=残飼」の状態であると推察されます。
長いままの粗飼料を上手に使う
長いまま給与する場合は、品質を観察し、低品質で選び喰いが顕著な場合や、残飼に茎部が目立つ場合は、給与量やエサ寄せ回数を増やして、あえて選び喰いをさせて栄養価の高い部位を採食させるようにします。
残飼は、やや多めに見積もるのが良いでしょう。良質な粗飼料は採食量が高く、残飼は葉部も含み、給与前と採食後の形状に大きな差は生じないでしょう。その場合は、程良い残飼となるように給与量を調整してください。
細断サイレージの給与
細断サイレージは一般的に栄養価が高く、育成牛に給飼する粗飼料としては有効な飼料です。単独給与のほか、TMRなど給与方法が多様性に富んでいます。一方、生鮮飼料なので、搾乳牛同様、不良発酵の回避など品質管理に留意してください。
一般的に、サイロの取り出し面管理で、高から中品質の部位を搾乳牛に給与し、中から低品質を育成牛に給与することは優れた管理です。
AMTS社CEOのTom Tylutk氏は、サイレージに含まれる乳酸は皮下脂肪の蓄積を助長するので、給与量の制限を推奨しています(4%DM未満)。サイレージの乳酸含量は高値になることも少なくありません。一方で、添加剤の選択など乳酸を低く抑制する調製法もあるので、育成牛に適したサイレージの確保に努めましょう。
サイレージ多給は高栄養も相まって過肥になりやすいので、制限的な給与が効果的で、残飼を少なめに見積もるほうが良いでしょう。実際の給与にあたっては、粗飼料分析を実施して、給与バランスを調整してください。
本稿(Dairy Japan 2024年11月号)では、「体重別の乾物摂取量」や「月齢別の乾物摂取量」、試算例など、より詳しく紹介されています。
PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。