
前回、pHにはカルシウムを——と書きましたね。
酸性土壌がどれだけ悪循環を引き起こすのか、イメージが湧いてきた方も多いと思います。ただ、こんな声も聞こえてきます。
「カルシウム、入れても効果が出ないんだよなあ」
今回は、その原因になっている「溶けないカルシウム」について、少し深掘りしてみましょう。
カルシウムが果たす役割
カルシウムは、単にpHを調整するだけではありません。カルシウムには植物にとって、次のような重要な働きがあります。
•土をほぐして根を伸ばしやすくする
•病気や暑さなどへのストレス耐性を上げる
•成長そのものをサポートする
逆に、不足すると……
•根腐れを起こしやすくなる
•硬く締まった、育ちにくい土になる
などの症状が出てしまいます。土ですぐに溶けてくれたら———ですが。
なぜ「溶けない」のか?
一言で言えばカルシウムは「石」だからです。植物も動物も、石はそのままでは吸収できません。
ちなみに「ミネラル」という言葉は、ラテン語の Minera(鉱山・鉱石)+ Alis(~に関する)から来ています。
つまり「鉱石由来の栄養素」のこと。
では、石を溶かすにはどうすればいいのか?
溶かす鍵は「酸」
植物にとって有効なカルシウム、リン、マグネシウム、逆に悪さをするアルミニウムなど、こうしたミネラルは、たいてい石と結びついて土の中に眠っています。
それを溶かすのが「酸」です。
例えば……
•クエン酸
•酢酸
•フルボ酸
こうした酸をそのまま入れる方法もありますが、僕のおすすめは、酸をつくる「菌」を入れることです。これが一番自然で、持続的な方法だと感じています。
提案:牛に食べさせてみよう
少しユニークな方法ですが、pH調整用の炭酸カルシウムを「牛に食べさせる」という考え方があります。
牛が炭カルを摂ると、吸収されるのは20〜30%程度。残りはそのまま糞として出ます。
つまり、この“残り”を堆肥に混ぜて活かせるのです。
例えば、1頭当たり300g/日を与えるとすると……
•吸収されるのは約90g(高乳量の牛は100g以上必要)
•排出されるのは約210g
この糞に「菌」を加えて発酵を促せば、吸収されやすい形に変わったカルシウムが畑にとってより良い形で戻っていきます。
しかも、このプロセスはカルシウムだけでなく、ほかのミネラルにも応用が利きます。
土と牛のミネラル循環
考えてみてください。
•牛がカルシウムを食べる
•糞として出す
•発酵させて土に戻す
•土が良くなり、草が育つ
•その草を、また牛が食べる
こうして、牛と土と作物の「ミネラル循環」が生まれます。この循環を意識することが、「良い土とは何か?」へのヒントになると僕は思います。
余談:貝化石ってどうなの?
……と、よく聞かれます。「炭カルより貝化石のほうが良いって聞いたけど、どう思う?」
確かに、貝化石にはマグネシウムやリンなど、炭カルにはない栄養素が含まれています。さらに、表面が細かい凸凹構造をしているため、溶けやすいという特徴も。成分的にも、形状的にも、メリットは多そうですね。
ただし、どれが合うかは「その土と、その作物次第」。万能なものはないので、使い方と相性を見極めていくことが大切です。
おわりに
「溶けないカルシウム」という一言の中に、土と生き物、そして時間の流れが含まれています。
ただ撒くだけではなく、どう循環させるか、どう活かすか。
それが、これからの農業の面白さでもあると僕は思っています。
PROFILE/ 筆者プロフィール

今村 太一Imamura Taichi
標茶町を拠点に、土壌改良資材の販売や周辺酪農家さんのサポートをする「soil」の代表。飼料会社に13年勤めた後、ドライフラワーやマツエク、ネイルのお店を経営。弟と一緒にsoilを立ち上げ、今は土や牛、人とのつながりを大事にしながら活動中。
経営やコーチング、微生物の話が好きです。「目の前の人に丁寧に」が大切にしている想いです。