酪農技術情報

【北海道大樹町 村﨑牧場】粗飼料だけでここまでできる!

JOURNAL 2025.07.29

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

3種の自給飼料で牛に無理なく乳量アップ ― 村﨑牧場の挑戦 ―

 

 購入飼料価格が高止まりする今、飼料の自給率をどう高めるかは多くの酪農家にとっての課題です。「草で乳を搾る」ことを目指し、十数年にわたって粗飼料体系を見直してきたのが、北海道広尾郡大樹町にある村﨑牧場。チモシー・オーチャードグラス・デントコーンをバランス良く活用し、乳量と収益の両立を図る取り組みを取材しました。

粗飼料中心に切り替えたワケは?

 村﨑隆一さんが粗飼料多給へ舵を切ったのは2013年。フリーストール導入で牛舎を拡張するなか、「個体乳量だけを追い続けると牛が持たない」と感じたことがきっかけでした。
  当時はチモシーと露地デントコーンの組み合わせでしたが、収量・品質ともに課題が多く、タイミング良く雪印メグミルク(酪農総合研究所)とともに「オーチャードグラス主体の多草種混播」に挑戦を開始しました。

試行錯誤の末にたどり着いた理想形

 取り組みは、オーチャードを少しずつ導入するところからスタート。播種や施肥、刈り取り時期などを酪総研と連携しながら見直し、現在は次の体系に落ち着きました。

  • チモシー:2回刈り
  • オーチャードグラス:3回刈り
  • デントコーン:露地+マルチ栽培

 収穫時期が分散されることで適期収穫がしやすくなり、収量も向上。栄養面でも、チモシーで繊維、オーチャードで蛋白、デントコーンでエネルギーを確保する理想的なバランスが整いました。

健康な牛群が利益を生む

 この粗飼料中心の体系により、疾病が減少。獣医往診対応の時間が減り、そのぶん草地管理に注力できる好循環が生まれました。個体乳量は一時的に下がったものの、健康で長く働ける牛が増え、経営全体としては安定しています。

 また、サイレージは草種ごとに別サイロで調製し、TMR成分が大きく変わらないよう工夫。ルーメン環境への負担も減らすことができています。

「基本に忠実」は、やっぱり強い

 酪総研のサポートのもと、村﨑さんが10年以上取り組んできた草地改良。「正直、基本を守るのは面倒。でも、それが一番の近道だった」と振り返ります。

 近年は再び個体乳量を上げる方針へ転換。デントコーンの給与量を増やしながらも、「無理をしすぎない」ことを大前提に、収支のバランスを見ながら理想の平均日乳量を35〜36kgと設定しています。

乳量の根本は「草」

 村﨑牧場の取り組みは、「牛に無理をさせず、収益を伸ばす」経営のヒントが詰まっています。
 重要なのは、外部の知見を取り入れながらも、自農場に合った形を根気よく作り上げていく姿勢。粗飼料の可能性を信じて丁寧に向き合うことで、購入飼料に頼りすぎない酪農が現実になりつつあります。

詳しくはDairy Japan2025年6月号をご覧ください。

PROFILE/ 筆者プロフィール

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。


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