酪農技術情報

【栃木県那須町・石川牧場】母の目で育てる

JOURNAL 2025.07.08

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan』2025年4月号p.46「特集ルポ2」より

栃木県那須町の石川牧場では、哺育担当の石川文子さんが、まるで“母の目”で子牛1頭1頭を丁寧に見つめ、健やかな成長へと導いています。

自身の経験や悔しさから学びを重ね、消毒や観察、環境作りを地道に実践。その姿勢は、確かな成果となって現れています。哺育を支える視点と工夫に迫ります。

哺育期の重要性

 哺育は子牛の命を守るだけでなく、将来の生産性にも関わる大切な時期です。石川牧場では、妻の文子さんが哺育管理を担い、1頭1頭を丁寧に見守っています。以前から牧場勤務の経験もあり、健康状態や成長の様子を日々観察しながら、細やかな管理を続けています。

 「数字やデータでの管理はしていないが、哺育期の不調やトラブルはその後に影響する。だからこそ、毎日気を配っている」と語ります。

1頭の死がもたらした変革

  2016年、早産で生まれた未熟児の子牛を失った経験が、大きな転機となりました。下痢が蔓延していた時期でもあり、「このままではいけない」と消毒を徹底。獣医師に勧められていた噴霧型消毒剤の使用頻度を徐々に増やし、現在では毎日欠かさず実施しています。

 「コストと手間はかかるが、子牛の健康が守れるなら安いもの。後から『これが原因だった』と気づくのは悔しい。だからこそ、できる対策を徹底する」と話します。

「しょうがない死」なんてない

 文子さんが何よりも重視しているのは、子牛を死なせないことです。「できることをすべてやり尽くして、それでも防げなかったのなら仕方がない。でもすべてをやっていないうちに諦めるのは違う」と信念を語ります。

 哺乳時の様子や動き、呼吸の仕方まで観察し、異変を早期に察知することで重症化を防いでいます。「牛の小さな変化を見逃さない」ことが、文子さんの信条です。

「喰える腹」を作る

 同牧場では、離乳時(約60日齢)に乾物摂取量が2kg以上になることを目標にしています。育成スペースの関係で早期に搾乳群へ合流させる必要があるため、哺育期から「しっかり食べられる力」を育てます。

 離乳前から少量のエサを与えて習慣化し、ルーメンの発達を促進。スムーズな移行と健康な成長を支えています。

女性が支える哺育管理

 文子さんは、地域の女性酪農家と情報交換できる「アクティブ講座」に参加し、ほか牧場の工夫や新たな哺育法を学んでいます。

 「多くの酪農セミナーは男性が参加することが多いけれど、ここでは哺育や育成を担当する女性が集まり、女性ならではの視点で話し合える。閉鎖的になりがちな仕事環境のなかで、こうした機会があるのは心の支えになっている」と語り、学びと励ましの場として活用しています。

目標は「販売価格アップ」

 今後は、より大きく健康なF1や和牛の子牛を育て、販売価格の向上を目指します。そのために初乳の量や飼料管理を工夫し、哺育期からの健康作りに力を入れています。

 「離乳後の治療がほとんどないのは妻の哺育管理のおかげ」と笑顔を見せる夫・正勝さん。観察と努力を重ねる文子さんの姿勢が、子牛の健やかな成長につながっています。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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