
『Dairy Japan』2025年2月号p.50「特集ルポ 寒冷時の牛舎環境を考える」より。
三重県内でも大規模な酪農と肉牛生産を行なうヤマギシズム生活豊里実顕地(農)。規模拡大と生産性向上に取り組み、起伏のある敷地内には多くの施設が整然と並びます。鈴鹿山脈からの強い吹き下ろしを受ける当地では、冬場の換気と風対策が重要。その取り組みを取材しました。
最もセキュリティレベルが高いのは哺乳前期
「和牛子牛はホルスタイン子牛に比べて弱く、肺炎に罹りやすい」と冒頭教えてくれたのは、肉牛部部長の舛屋裕介さん。そのため季節を問わず換気を最も重視している施設です。和牛子牛を管理する哺育舎はカーフハッチによる個別管理タイプ。横断換気で舎内の空気を入れ替えますが、そのファンの角度を季節に応じて変え、とくに冬期には子牛に直接風が当たらないように配慮しています。ファンはインバーターで制御し、回転数こそ変わるものの年間を通じて止めることはないと言います。これは舛屋さんが言う「換気の重要性」を表しています。
また、入気側・排気側ともに厳寒期には下側のカーテンを閉め、牛体より上部で換気が行なわれるように管理しています。気温が13℃を下回ると各牛の上部にある赤外線ヒーターを点け、寒さ対策を加えます。

カーテンの開閉で換気と温度をコントロール
搾乳牛を管理するフリーストール牛舎は開放型で、パネルファンによって縦方向に風を順送するタイプ。冬季は下側のカーテンを閉め、横側から牛体に冷たい風が当たらないように配慮。ファンはインバーターで制御し、通年回すことで必要な換気量を確保しています。
夏場は入気側のカーテンを上下閉めることで牛舎を流れる風の速度を上げ、排気側のカーテンを開けることによって汚れた空気が排気側に一気に流れることを防いでいるそうです。

建屋ごとの風の流れを把握
同農場の敷地は中山間地にあり、建屋ごとの高低差があります。加えて数多くの建屋や構造物があるため、それぞれの牛舎ごとに風の流れは異なると舛屋さん、鳥羽獣医師。鈴鹿山脈から吹き下ろす風は強く、寒冷対策のポイントは風の対策(ウィンドブレイク)にあります。季節ごと、牛舎ごとの風の流れを把握することはもちろん、毎朝牛舎を回ることで風の流れを確認し、カーテンの開度や遮風板の開閉などで細かな対応をするのも同農場の細かな管理のポイントです。
哺育舎はオールイン・オールアウトで
冒頭示した哺育舎は左右対称のレイアウトで、オールイン・オールアウトで徹底した疾病対策を施しています。大規模ならではの取り組みで、一斉に離乳した後、当該エリアのハッチの除去と敷料の排出、そして洗浄と消毒をし、次の哺乳牛群の導入をします。これはホルスタイン哺乳舎も同様の考えで、ペンごとにオールイン・オールアウトを徹底。また、哺育舎全体を衛生管理エリアとしたうえで、舎内をリスクによって分け、履物交換をするなどして病原体の水平移動を予防する徹底ぶり。
舛屋さんは「オールアウトしないと、蓄積する汚染がある。そのため、とくに哺育舎などリスクの高い施設は、想定頭数の倍数で設計するようにしている」とその考えをまとめてくれました。
PROFILE/ 筆者プロフィール

前田朋宏Tomohiro Maeda
Dairy Japan編集部・都内在住。
取材ではいつも「へぇ!」と驚かされることばかり。
業界に入って二十数年。普遍的技術、最新の技術、知恵と工夫、さまざまな側面があるから酪農は楽しい!