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搾乳手技について考える②

JOURNAL 2025.03.13

宮島 吉範

宮島 吉範Yoshinori Miyajima


②乳頭の洗浄、汚れの拭き取り

 乳頭についた汚れの拭き取りも実に奥が深い仕事です。最近は敷料に使用するおが粉の価格が高騰しており、牛が綺麗に乾くほどの量を投入できないという苦しい現状があります。われわれ現場の獣医師は、理想と現実のギャップに苦しみつつも、現状に妥協することなく、少しでも改善できる余地がないかを探して、農家さんとともに地道に改善を目指します。

 もちろん汚すぎる環境は論外ですが、綺麗な環境で牛を飼うことが難しいなら、せめて搾乳の際に乳頭、さらには一番大切な乳頭先端(乳頭口)を綺麗にしてあげることに注力すれば、乳房炎の発生、体細胞数の上昇はかなり抑えられるのではないかと考えています。

 立会をしていると、さまざまな搾乳前の所作があります。布と紙の違い、先にプレディッピングしてから前搾り、前搾りからプレディッピングなど順番の違い、人ではなく乳頭清拭装置を使うなど。方法は違いますが、一番大切な目的は乳頭の先端に付着している汚物を確実に取り除くことです。それがなかなか難しい。

 乳頭の側面は見えるので、拭き取りやすいです。しかし、先っぽは、かがまないと見にくい、少し暗いと見えにくいなど、意外と見えていないです。一番大切な場所ほど見えないです。下を鏡にすると見えるようになるかもですが、現実的には無理ですね。せめてパーラーには明るい光を取り入れましょう。

 前回ご紹介した第9回HQMデイリーアカデミーにおいて、「乳頭口の衛生スコア」なるものが示されていました。それによると、

スコア①目に見える汚れやディッピング剤がない

スコア②目に見えるディッピング液のシミ

スコア③少量の汚れや糞が付着

スコア④大量の汚れや糞が付着

となります。


 立会中に「今からミルカーを装着するよ」という、その直前を狙って乳頭口の拭き取りをします。
 そうすると、かなりのケースで汚れが付いていることがあります。写真2を見ると、清拭をしたつもりでも、かなり汚れていることがあります。乳頭サイドは綺麗なのですが、乳頭口の汚さのギャップに驚くことがあります。

 拭き取りをする際に、乳頭口がガサガサしていると拭き取りが困難になります。乳頭口をガサガサにしないためにも、過搾乳はしないようにしましょう。前搾り、適切な離脱タイミングが重要です。搾乳はすべての所作が円のようにつながっています。あちらがダメでも、こちらがダメでも、乳房炎の原因になります。実に奥が深い仕事です。

写真1 左のアル綿は乳頭口の衛生スコア1から2

写真2 結構汚れが目立つので乳頭口の衛生スコア3から4

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PROFILE/ 筆者プロフィール

宮島 吉範

宮島 吉範Yoshinori Miyajima

千葉県の一般家庭に生まれる。麻布大学 栄養学研究室を卒業後(有)あかばね動物クリニックに入社し獣医師として25年。現在は、乳牛・肥育牛(主に交雑種)・繁殖和牛を担当する。乳牛においては診療・繁殖検診・搾乳立会・人工授精・受精卵移植・コンサルティングなどを行なう。趣味は妻との居酒屋や蕎麦屋巡り。

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