酪農技術情報

栄養・施設、そして蹄の衛生

JOURNAL 2025.02.12

前田朋宏

前田朋宏Tomohiro Maeda

『Dairy Japan 2024年11月号』では「蹄病低減へのチャレンジ」というテーマで取材記事を掲載しました。蹄病は疼痛だけでなく乳牛の行動の制限、採食量の低下、乳量減、繁殖成績の低下など、多くの問題につながります。今回は、静岡県富士宮市の有限会社朝霧メイプルファームさんの取り組みを紹介します。

●いつでも蹄のケアができる環境

 書籍『乳牛の護蹄管理~チームワークを発揮して牛も農場も快適に~』(Dairy Japan刊)の著者の一人でもある有限会社朝霧メイプルファームの丸山純代表取締役は、こと農場における護蹄管理に積極的に取り組んできました。自身だけでなく農場スタッフにも削蹄の勉強会に参加してもらうことで、農場全体で肢蹄の健康や削蹄、蹄処置の知識と技術を磨いてきました。それは単に現在発現している蹄のトラブルに対応するではなく、施設や飼養管理面など多岐にわたります。
 年3回の定期削蹄だけではカバーできない跛行への対応は、スタッフによる蹄処置、獣医師による治療で早期に対応できる体制を築いています。

●搾乳時の蹄洗いとフットバス

 ではどのようにDDをコントロールすることができたのでしょうか。それは実に基本に忠実な管理にありました。「まずは搾乳時にパーラー内で蹄を水洗いすること。日々、蹄を清潔に保つこと。そしてフットバス。朝霧メイプルファームでは週に2回ずつフットバスを実施している。具体的には金曜日の夜と土曜日の朝、そして土曜日の夜と日曜日の朝、夜と朝でそれぞれフットバス製剤を変えて実施している」と教えてくれました。これを地道に続けることで、DDコントロールが達成できたと丸山さん。

●初産は肢バンドで股裂き防止

 朝霧メイプルファームでは、蹄病だけでなく運動器障害による廃用頭数も減らすことができました。その一番のポイントは「初産牛への全頭肢バンドの装着」だと丸山さん。「見た目は良くないが廃用になることを考えれば有効」と言い、運動器障害による廃用は実施前には年に6から7頭出ていたものが、現在はゼロに。蹄だけでなく肢に負担をかけないことで不本意な廃用頭数を減らすことができています。

●スリップを防止する

 朝霧メイプルファームでは飼槽通路や横断通路などすべての通路に溝切りを実施。滑走を防止することで白帯病などのリスクを低減しています。溝の切り方にはいくつかの方法がありますが、飼槽通路などは縦溝を中心として蹄への負担が少ない方法を、横断通路など滑りやすく、また急角度での転回を必要とする箇所ではメニーグルービングと呼ばれる、より滑りにくい加工を施すなどポイントを押さえた施工をすることで蹄への負担を最小限に、かつ確実な滑走防止を実現しています。

●乾乳前期のエサ変更で蹄も周産期病も改善

 蹄病が減ったことの要因の一つとして「エサ喰いが上がったことがあるのでは?」と丸山さん。以前は搾乳牛の残飼を再利用したメニューだった乾乳前期のエサを、2023年7月に残飼ゼロの新たなメニューへと組み直したことで、乾乳前期の喰い込みが10%以上アップしたと言います。すると喰える腹ができたことでメニューを一切変更していない乾乳後期の採食量も上がりました。その結果、「フレッシュ期の採食量も上がり、負のエネルギーバランスは改善され、周産期病が激減した」と丸山さん。しっかりと喰えることで廃用における事故率は4ポイント減少して13%へ、繁殖障害による淘汰も5ポイント減少して7.5%に改善したと言います。また、アシドーシスのリスクも減り、それに伴う蹄病も減少。蹄病だけでなく繁殖成績の改善にも結びつき、農場成績の向上に結びつきました。

PROFILE/ 筆者プロフィール

前田朋宏

前田朋宏Tomohiro Maeda

Dairy Japan編集部・都内在住。
取材ではいつも「へぇ!」と驚かされることばかり。
業界に入って二十数年。普遍的技術、最新の技術、知恵と工夫、さまざまな側面があるから酪農は楽しい!

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