こんにちは、ルミノロジー研究室の泉です。
本格的な冬が到来しましたが、少々季節をさかのぼる10月から北海道では生乳の乳成分取引の価格が改定になっています。これまでの成分乳価では、乳脂肪と無脂固形分の比率が「4:6」だったのですが、10月以降は「5:5」と乳脂肪の単価が引き上げられました。この改定の発端は、皆様ご存知かと思いますが、バターは品薄気味であるのに対して、脱脂粉乳の在庫が積み上がってきていることが要因の一つになっています。
成分乳価の詳しい説明はほかに譲るとしまして、今回は、ルミノロジー的に乳脂肪増加を考えてみましょう。
乳脂肪は乳房に無数にある乳腺細胞で作られます。乳脂肪合成には、いくつかの経路と原料がありますが、今回は、ルーメン発酵で作られる酢酸にスポットライトを当てます。
酢酸はルーメン微生物によって飼料が発酵するときに作られる揮発性脂肪酸(VFA)で、主に繊維が分解されるときに生成されます。酢酸はルーメンの表面から吸収されて血流に乗り、乳腺細胞に届けられます。乳腺細胞に届いた酢酸はデノボ脂肪酸となって、やがて乳脂肪になります(デノボ脂肪酸がおわかりにならない方はネット検索してみてください)。
となりますと、乳脂率を高めるには、乳脂肪の材料である酢酸が大量に作られること、すなわち繊維が消化しやすいことがポイントになります。消化の良い牧草といえば早刈りの牧草です。一方で、昨今の天候不順から超刈り遅れの牧草が採れてしまうことも珍しくありません。
刈り遅れ牧草は、ルーメン微生物の力を持ってしても容易に分解できません。そうなると酢酸の生成も不足するので、乳脂率も高まらないというわけです。
そこで、当研究室では企業とコラボして、繊維消化酵素製剤を試してみました。試験管内を人工ルーメンに見立てて、ルーメン液、刈り遅れ牧草、酵素製剤を入れてぬるま湯につけて培養しました。その結果、酵素製剤を入れると乾物の消化率が高まり、生成するVFA総量と酢酸量も増加することがわかりました。
一方、早刈りの牧草では、酵素製剤を入れても効果は認められませんでした。この試験結果は、酵素系添加剤を使うときの示唆を与えてくれます。それは、そもそも消化の良い早刈り牧草に対して高価な酵素製剤を使ってもそれ以上消化性を改善できないこと、刈り遅れで発酵しにくい牧草給与時には酵素製剤添加をチャレンジしてみても良さそうだということです。刈り遅れ牧草でパワーがなく、乳生産に悪影響が出ていると感じたときには、酵素製剤の使用もオプションの一つに入れても良いかもしれません。
PROFILE/ 筆者プロフィール
泉 賢一Kenichi Izumi
1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。