こんにちは、ルミノロジー研究室の泉です。
この秋から初冬にかけて、講演にお招きいただく機会が何度かありました。出張では、普段足を運ぶことのできない場所で人に会ったり、おいしいものに舌鼓を打ったりと楽しい「副産物」も少なくありません。
先日は、日本家畜臨床学会で搾乳ロボット牛群の栄養管理について話す機会を与えていただきましたが、会場となっている岩手大学に足を踏み入れたときは、しみじみとした感動に包まれました。それは、この冬に読んだ『銀河鉄道の父』(門井慶喜さん著)の舞台であったからです。現実逃避しがちな宮沢賢治とその父のまなざしを描写した感涙の作品です。子、とくに息子を持つ父親必読の直木賞受賞作だと思います。
さて、搾乳ロボットシステムは、まだまだ発展途上の可能性に満ちた管理方法です。今回は、その中の一つのトピックについてご紹介します。
まずは、写真をご覧ください。
これは数年前、全酪連関係者とともに訪問したアメリカの搾乳ロボット牛群の様子です。皆さんは、ここに違和感をお感じになるでしょうか? スコットランドの研究チーム(Marumoら2022)は、これらの牛達の仲の良さに一つの疑問を持ちました。写真には搾乳中の牛、その後ろで待機している牛、ロボットの外側でこちらに顔を向けている牛、3頭の牛がいます。この牛達がひょっとして仲良しで、いつも「つるんで」いるとしたら、そのことは生産性にメリットをもたらすでしょうか? それともデメリットをもたらすでしょうか?
身近な例では、受験生が夜な夜な睡眠時間を削って友人達とのSNSトークに花を咲かせていたとしたら、それは学力低下に結びつくのでデメリットと言えるでしょう。牛の場合はどうでしょうか?
研究チームは調査を通して次のような結果を得ました:
•自動搾乳システムで飼育されている乳牛は社会的結びつき(仲良し関係)を持っている
•経産牛は、初産牛よりも社会的結びつきの強さが強かった(つるんで行動しがち)
•経産牛においては、牛同士がつるんで行動するほど乳脂率と乳蛋白質率が低下した
このことを噛み砕いて説明すると、次のようなイメージになります。経産牛は仲良し牛とつるんで行動をともにしがちなので、飼槽での採食時間、ベッドでの横臥時間と反芻時間が減ってしまう。結果的にルーメン環境にストレスがかかってしまい、乳成分率が低下してしまうというわけです。
一方、初産牛は経産牛と逆の結果になりました。仲良し関係が強いほど、乳成分率はアップしたのです。初産牛は身体が小さく弱い立場なので、仲間が多いほど助け合うことができて、人間(牛)関係によるストレスが軽減されたのではないかと著者らは考察していました。
搾乳ロボットシステムは、人が間接的にしか関与できない牛まかせの部分が多く存在します。その意味では、繋ぎ飼いやミルキングパーラー搾乳システムと比べて、行動学やそれを左右する牛舎デザインなどのウエイトが大きなシステムと言えるでしょう。
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PROFILE/ 筆者プロフィール
泉 賢一Kenichi Izumi
1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。