『Dairy Japan 2023年6月号』p.20「哺乳法の改善で健康・元気に!」より
バケツによる哺乳(バケツ哺乳)からニップル付き哺乳容器による哺乳(ニップル哺乳)に変更したら、哺乳期間の増体、ミルク費用の削減、疾病事故の低減につながった—-という現場事例を、丹羽竜祐獣医師(NOSAI石川 家畜診療所。以下、著者)が詳しく解説してくださいました。
●バケツ哺乳のときは下痢・肺炎・中耳炎が
調査現場は肥育牛400頭規模の農場で、導入された子牛(主として交雑種)は約60日齢まで哺育舎のカーフハッチ飼養、その後は育成舎で群飼して約80日で離乳します。カーフハッチでは容量約5リットルのバケツで、群飼では容量約60リットルのバケット状容器で、ミルクを飲めるだけ与えていました。
しかし哺育舎では下痢が、育成舎では肺炎と中耳炎が頻発していたことから、ニップル哺乳およびミルク給与量の見直しが行なわれました。
●ニップル哺乳で日増体量アップ
発育良好とされる1日増体量(DG)1.0kg以上が、バケツ哺乳のときは45.5%だったのに対し、ニップル哺乳にしたら72.2%となりました。
平均DGは、バケツ哺乳は0.87kg、ニップル哺乳は1.15kgで、0.3kg近い差がありました。
●ニップル哺乳で経費削減
1日当たりのミルク給与量を見直したところ、1頭当たりの哺乳期間中のトータルのミルク量は、バケツ哺乳時の490リットルから230リットルに減少しました。
その結果、1頭当たりのミルク費用は、2万8257円から1万3263円に減少し、1万4994円の削減になりました。
●死亡頭数と死亡率が大きく改善
バケツ哺乳期間の診療件数・死亡頭数は89件・18頭でしたが、ニップル哺乳期間中は102件・6頭でした。
呼吸器病の診療件数・死亡頭数・死亡率を見ると、バケツ哺乳期間では46件・13頭・28.3%だったのが、ニップル哺乳期間中は68件・2頭・2.9%で大きく改善しました。中耳炎も減少しました。
ニップル哺乳でミルク量を減らしたにもかかわらずDGが改善したのは、「ニップル哺乳はバケツ哺乳に比べ、より自然哺乳に近いため下痢を呈する子牛が少なくなり発育も改善したものと考えられる」と著者は考察しています。
また、呼吸器病が減少したのは「重度の誤嚥性肺炎が減ったため」、中耳炎が減少したのは「鼻腔にミルク入ってマイコプラズマなどの病原体が耳管まで押し上げられることによる発症が減少したため」と考察しています。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。