哺育期の子牛は、まだ1円も稼ぎません。だからこそ、哺乳量を増やす・哺乳期間を延ばすといった手間とお金は、つい後回しになりがちです。
では、哺乳に1頭当たり2万円多くかけたら、その元はいつ、どれだけ返ってくるのか。広島大学 酪農エコシステム技術開発センター・センター長の杉野利久先生が、研究データを基に試算しています。
※本記事は、Dairy Japan 2025年9月臨時増刊号『Dairy Biz 03』の特集「これって実際儲かるの? 投資・取り組みに対する費用対効果」Part.1(杉野利久「発育良好な子牛は未来の稼ぎ頭 哺乳管理に注力するコスパを考える」p.16〜19)の一部を再構成したものです。
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こんな方におすすめ
- 哺乳量を増やしたいが、代用乳代が増えるのが気になっている
- 初産分娩月齢や、抱えておく後継牛の頭数を見直したい
- 哺育への投資の意味を、数字で家族やスタッフに説明したい
この記事の要点
- 高栄養哺乳の追加コストは、離乳までに1頭約2万円(杉野先生の見積り)
- 初産乳量が400kg多くなると仮定すると、乳価130円/kgで5万2000円。初産の1乳期で追加コストを上回る
- 生涯の利益まで含めた試算では、費用対効果は「1:5以上」
INDEX ➖
哺育・育成は「コスト」か「投資」か
日々の乳代を生み出す搾乳牛に投資するのは、酪農では当たり前のことです。暑熱対策の設備も、まずは搾乳牛群から――という農場が多いでしょう。
一方で、哺育〜育成期のコストは総生産費の20〜30%を占めるといわれます。飼料とエネルギー価格の高止まり、人手不足が続くなかでは、投資の効果がはっきり見えない部門ほど後回しになる。杉野先生はこの現状を出発点に、数年後に農場全体の収益構造を変える可能性がある投資として、哺育期の栄養管理を捉え直します。
高栄養哺乳は、標準哺乳と何が違う?
| 標準哺乳 | 高栄養哺乳 | |
|---|---|---|
| 哺乳量の目安 | 体重の約10% (0.5〜0.7kgDM/日) | 体重の20%前後 (1.1〜1.4kgDM/日) |
| 目標 | 6週齢で離乳。スターター摂取を促す | 8週齢までに出生時体重の2倍 |
北米の大規模調査では、1日平均増体量(ADG)は標準哺乳の0.5kgに対し、高栄養哺乳で0.8kg以上に向上しています。生時体重40kgの子牛を8週齢で離乳すると、0.8kg×56日=44.8kg。離乳までにちょうど生時体重の約2倍になる計算です。
そのぶんコストもかかります。代用乳費は標準哺乳の倍。糞尿が増えるので敷料交換と作業の手間が増え、哺乳器具の摩耗も早まります。杉野先生は、これらを合わせた離乳までの追加コストを「2万円/頭、程度」と見積もっています。

追加の2万円は、初産の1乳期で回収できる
では、その2万円は返ってくるのか。杉野先生が示すのは、メタ解析(複数の研究をまとめた分析)の結果です。哺育期のADGが100g増えるごとに、初産乳量が100〜150kg増える傾向があるといいます。
仮に、初産乳量が標準哺乳より400kg多くなったとすると、乳価130円/kgで5万2000円の粗収入増。初産の1乳期だけで、哺乳の追加コストを上回る計算です。
しかも、効果は乳量だけではありません。哺乳量を増やすと免疫能が高まり、下痢や肺炎の治療費が平均1500円/頭減ったという臨床報告も紹介されています。統計の上では「見えにくい収益」ですが、治療費と廃用による損失を合わせると小さくない額です。
生涯の利益まで見ると「1:5以上」
杉野先生の試算は、初産の1乳期で終わりません。誌面では、米国ウィスコンシン大学の長期追跡データを基に、3産目までの乳量と生存率まで含めて1頭当たりの利益を見積もり、追加コスト2万円に対する費用対効果を「1:5以上」としています。
「哺乳量を増やすと、スターターを食べなくなるのでは?」という現場の心配にも、誌面で研究データを示して答えています。杉野先生は高栄養哺乳を、短期の負担にとらわれず将来の利益を見据えた「攻めの保険」と表現しています。
この続きは誌面で
- 生涯純利益が1頭10万円を超えるとする試算の内訳
- 初産分娩月齢を1〜2カ月早めると、育成コストはいくら減るか
- 表1「ターゲットグロース」(出生から2産までの目標体重・ADG)
- 表2「牛群維持に必要な育成牛頭数(80頭搾乳)」と、浮いた枠の使い方
連載「Dairy Biz 03 を読む」(全5回)
- 第1回 哺乳に1頭2万円多くかけて、元は取れる?(この記事)
- 第2回 初乳の“質”への投資は何で元が取れる?(近日公開)
- 第3回 自給飼料を「お金」に換算すると見えること(近日公開)
- 第4回 乾乳牛の暑熱対策は何倍になって返ってくる?(近日公開)
- 第5回 帳簿の数字を経営に使うための第一歩(近日公開)
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本書の内容
特集1 これって実際儲かるの? 投資・取り組みに対する費用対効果
Part.1 発育良好な子牛は未来の稼ぎ頭 哺乳管理に注力するコスパを考える(杉野 利久)
Part.2 初乳の質にこだわるのは良い投資? 高品質初乳確保が農場の損失を防ぐ(福森 理加)
Part.3 自給飼料が違うと収入はこんなに違う 自給飼料の経済性を検証(海田 佳宏)
Part.4 実はとても重要な乾乳牛への暑熱対策 乾乳牛への暑熱対策の経済効果を考えてみました(大場 真人)
特集2 酪農の経営管理は「面倒くさい」!? それはなぜ?
Part.1 経営管理は面倒くさい! を超える 数字から考える酪農経営の第一歩(日向 貴久)
Part.2 酪農経営の把握は今後の必須科目(須藤 純一)
Part.3 経営形態ごとの“儲かる条件”とは?(須藤 純一)
特別企画 実際に酪農生産者に聞いてみた 費用対効果goodなモノ・コト
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酪農と地域を盛り上げるユース達 第3回 若手リーダーの挑戦 川上牧場 川上哲也さん
World Dairy Report 酪農乳業の国際情勢を読む 第12回「食料安全保障」と「気象」「健康」がリンク?(寺田 展和)
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