酪農役立ちコラム

繁殖は「点」ではなく「線」で見る

JOURNAL 2026.02.26

寺内 宏光

寺内 宏光Hiromitsu Terauchi

 「前回の妊娠鑑定はほとんど受胎してたのに、今回は受胎が半分以下。何が問題だったのだろうか……」繁殖検診後などによくこんな話が出ます。熱心な農家ほど(あるいは技術者も)、毎回の繁殖検診の結果に一喜一憂し、原因を探そうと頭を悩ませてしまうことがあります。

 カナダでのPaul M. Fricke博士の講演は、その悩みの多くが実は「繁殖のランダム性(偶然)」に振り回されているだけだと教えてくれるものでした。

 人間の脳は確率を直感的に理解するのがとても苦手だそうです。

「繁殖」はコイントスと同じ

 妊娠鑑定の結果は「受胎か、不受胎か」の二択しかありません。これを専門用語で「二項変数」と言います。これはコイントスとまったく同じです。コインの表が出る確率が50%だと証明するには、10回や100回投げただけでは不十分で、1,000回ほど繰り返してようやく真実の姿(50%)が見えてくるのです。

 週に10〜20頭、あるいは40頭程度の検診結果で「受胎率が落ちた!」とパニックになるのは、コイントスでたまたま裏が数回続いたのを見て「このコインは呪われている」と騒ぐようなもの、だということです。

「意味のないパターン」を探していませんか?

 人間には、ランダムな数字のなかに無理やり「パターン」を見つけ出し、意味を与えようとする習性があります。

 しかしFricke博士は、それらを「ランダムなノイズ」だと切り捨てます。短期的な数字のトゲ(変動)を追いかけて、精液を変えたりサプリを導入したりしても、経営を迷走させる原因になりかねません。

Fricke博士から三つのアドバイス

  1. 「鑑定結果の悪い日」はあるものと思っておく:それは単なるランダムな変動です。「今週はたまたまコインの裏が出ただけ」とどっしり構えてください。
  2. 「加重平均」の線を見る:毎回の棒グラフではなく、それらを滑らかに繋いだ加重平均の線を見ましょう。本当の農場の実力は、その緩やかな線に隠れています。
  3. 自分の農場での「証明」にこだわらない:「自分のところで10頭試して良かったから」というのは、ほぼ科学的な根拠にはなりません。新しい技術の導入は、自身の主観ではなく、何百頭、何千頭という規模で検証された信頼できる科学的データに基づいて判断しましょう。

 繁殖管理は「点」ではなく「線」で見ることが大切です。数字に振り回されてストレスを溜めるのではなく、長期的なトレンドを一緒に見つめていきましょう。そのほうが、牛も人も、もっと楽になれるはずです。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

寺内 宏光

寺内 宏光Hiromitsu Terauchi

北海道にて酪農場勤務と㈱トータルハードマネジメントサービスでの修行を経て、2016年より栃木県にて家業の寺内動物病院を三代目として継承。より広く地域のニーズに応えるため2022年より法人化し、現在は獣医師4人在籍する㈱寺内動物病院の代表

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