酪農の現場において、搾乳は毎日欠かすことのできない重要な作業です。その中心的な役割を担うのが「ミルカー」です。ミルカーを適切な状態で使用することで、効率良く乳を搾れるだけでなく、乳牛の健康維持や乳質の安定、機械自体の寿命延長にもつながります。
一方で、使い方やメンテナンスが不十分な場合、機械トラブルだけでなく、性能低下による乳房炎発生リスクの増加など、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。
本記事では、日々忙しい現場の中でも実践しやすいミルカーのチェックポイントと、基本的なメンテナンスの考え方について解説します。
『Dairy Japan2026年1月号』現場技術シリーズ「ミルカーのメンテナンス、正しくできていますか?機械を長持ちさせるには確実なメンテナンスを」より。
筆者:池田 智彦(オリオン機械株式会社 酪農事業部、営業企画部・副部長)
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ミルカーの基本構造と役割

ミルカーは、乳頭に装着するライナー(ゴム製部品)からミルククローを経由し、真空の力で乳を吸引し、バルククーラーへと移送する装置です。
搾乳中は、パルセータによって真空と大気が交互に切り替えられ、一定のリズムでライナーが開閉することで、乳牛に過度な負担をかけずに搾乳が行なわれます。
部品の劣化や汚れがあると、乳頭への刺激が変化し、乳房炎発生の原因になります。ミルカーは「とくに敏感な乳頭に直接触れる機械」であることを常に意識し、適切な状態で使用することが重要です。
よくある使い方の落とし穴
日常作業で、次のような状態になっていないでしょうか。これらは乳牛の健康や機械寿命に悪影響を及ぼす恐れがあります。
1)ライナーの交換が遅れると

毎日の搾乳と洗浄を繰り返すことでライナーは少しずつ伸び、乳頭に接触する部分が楕円化します。その結果、「つぶれ圧」が低下し、搾乳にさまざまな影響を及ぼします。
つぶれ圧とは
ライナーを閉じるために必要なライナー内外の差圧のことです。
- メーカーやライナーの種類によって数値が異なります。
- 長期間使用すると、つぶれ圧が低下します。
たとえば例えば、クロー内の平均真空度が36kPa、ライナーのつぶれ圧が14kPaの場合、
36kPa − 14kPa = 22kPaとなるため、シェル内真空度が22kPa付近でライナーが開閉を始めます。

つぶれ圧低下による影響
つぶれ圧が低くなったライナーが搾乳に及ぼす影響は以下のとおりです。
- ライナーの開きが遅れ、マッサージ時間が増える。
- 搾乳時間が延び、搾乳効率が低下する。
- 古いライナーに牛が慣れ、新品交換時に違和感を示すことがある。
また、古くなったライナーには乾燥や膨張による微細なクラック(ひび割れ)が生じます(写真2)。クラック部分には汚れが付着しやすく、細菌繁殖による乳質低下や乳房炎の原因になります。

2)パルセータの動作不良を放置すると

パルセータは、吸引と休止の拍動リズムを作る重要な部品です(図4)。拍動が乱れると乳牛がストレスを感じ、乳量や乳質に影響を及ぼします。異音や動作の不安定さが見られたら、早めに点検しましょう。
3)チューブ・ホース類の汚れや亀裂

チューブやホース類は、乳や空気が通る重要な経路です。汚れや亀裂があると細菌が繁殖しやすく、衛生面や乳質に悪影響を与えるだけでなく、真空系統の不具合につながります(図5)。
- ①ミルクチューブ
年1回を目安に交換。硬化するとライナースリップやユニット落下の原因になります。 - ②二連チューブ
亀裂が入るとエアー漏れが発生し、乳房炎の原因になります。 - ③脈動チューブ
エアー漏れによりライナーの正常な開閉を妨げます。 - ④送乳ホース
汚れや亀裂は細菌繁殖を招き、乳質に影響します。
日々のメンテナンスポイント
ミルカー性能を維持するため、四つのポイントを日常的に意識しましょう。
ポイント①:ライナーの定期交換
乳頭に直接触れる部品のため、衛生管理が最重要です。
<オリオン機械製ライナーの目安>
| ライナーの種類 | |
| ゴム製 | 1500頭搾乳 または3カ月 |
| シリコーン製 | 3000頭搾乳 または6カ月 |
交換日時を記録することで、管理の精度が高まります。
ポイント②:パルセータのチェック
搾乳前に毎回、拍動回数を確認しましょう。一般的な目安は1分間に53~65回です。
異常があれば販売会社へ点検を依頼してください。
ポイント③:チューブ・ホース類の洗浄と点検
毎日の洗浄に加え、定期的な点検を行ない、亀裂や変色があれば早急に交換しましょう。
弊社では以下を推奨しています。
| 乳・洗浄液が通るチューブ | 1年ごと |
| 真空・大気系統チューブ | 2年ごと |
ポイント④:真空度の確認
真空度は搾乳性や乳房炎発生に大きく影響します。
真空計の針の動きに注意し、異常があれば販売会社に相談してください。
意外と見落としがちな注意点
真空調整器の点検
真空調整器は、ミルカー全体の真空度を一定に保つために重要です。真空配管やミルク配管内の真空度が安定していなければ、搾乳時の負担が大きくなり、乳牛のストレス増加や搾乳効率の低下につながります。
フィルターや内部の弁に汚れが付着すると、設定した真空度が維持できず、真空度が変動しているケースも少なくありません。定期的に分解清掃を行い、消耗部品はメーカー推奨のタイミングで交換することが大切です。
真空度を調整する際は、現在の数値を確認したうえで、急激に変更せず、1kPaずつ段階的に調整しましょう。
レシーバージャー内部の確認
レシーバージャーは、搾乳された生乳が一時的に集まる重要な部分ですが、内部の汚れは見落とされがちです。洗浄が不十分な場合、乳成分の残留やぬめりが発生し、細菌繁殖の原因になります。
点検時は、目視による汚れの確認だけでなく、手で触れて「キュッ・キュッ」とした感触があるか確認しましょう。ぬめりを感じる場合は、乳脂肪分が残っている可能性があります。
また、異臭や牛乳臭が残っていないかの確認も重要です。異常が見られる場合は、洗浄工程や洗剤濃度、温度条件を見直し、必要に応じて販売会社へ相談してください。
月1回の一斉点検
日常点検に加え、月に1回はミルカー全体を対象とした一斉点検をお勧めします。ライナー、チューブ類、ミルククロー、パルセータ、真空ポンプなど、すべての部品を確認することで、小さな異常を早期に発見できます。
「まだ使える」「問題なさそう」と感じる部品でも、劣化が進行している場合があります。点検結果を記録して残しておくことで、次回の交換時期の目安になり、計画的な部品管理が可能です。
定期的な一斉点検は、突発的な故障や搾乳トラブルを防ぎ、安定した搾乳環境を維持するための重要な取り組みです。
まとめ
ミルカーを正しく使用し、こまめにメンテナンスを行なうことは、乳牛の健康維持、乳質向上、機械寿命の延長につながります。日々の搾乳作業で少し意識を変えるだけでも、大きなトラブルを未然に防ぐことが可能です。
また、日常点検や定期交換に加え、販売会社による測定機器を用いた定期点検も重要です。気になる点があれば、購入した販売会社へ相談し、早めの対応を心がけましょう。
本記事が、日々の現場管理を見直す一助となれば幸いです。
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PROFILE/ 筆者プロフィール
Dairy Japan編集部Dairy Japan Editorial Department
酪農応援マガジン「Dairy Japan」編集部です。
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