『Dairy Japan』2023年1・2月号「ハードヘルス学入門 No.1・2」より
農場の生産性向上のためには牛群全体の飼養管理を考え、健康に管理することが重要です。その考えを基に、乳牛が快適に過ごせる環境を検討するのが「ハードへルス学」です。
本稿では「周産期牛群の評価項目(ベンチマーク)」について福森理加先生先生(酪農学園大学 ハードヘルス学ユニット・准教授)に解説していただきました。
●ハードへルス学とは
酪農の経営スタイルが多様化するに伴い、乳牛管理の考え方は“個”から“群(herd)”へとシフトしてきました。そのなかで乳牛を健康に管理し続けるための学問をハードへルス学として、日々研究しています。とくに乳牛を取り巻く環境に着目し「居住環境」「採食環境」「搾乳環境」「歩行環境」「人的環境」の五つの環境に焦点を当て、管理の見直しや改善提案を行なっていきます。
●移行期牛群の健康度を評価
ハードへルス学のなかでもとくに重点を置いているのが“移行期の管理”です。牛群がスムーズに周産期を迎え、乗り越えていっているかを評価する方法の一つに「ベンチマークによる疾病発生割合の評価」があります。もともとベンチマークとは、社会基準や企業などが経営改善に用いるツールとして設定されているものです。酪農に当てはめるならば、複数軒のデータを調査して得られた一つの基準(数値)を設け、それに対して自身の農場がどうかを評価するということになります。
ハードヘルスユニットが農場を訪問し移行期管理をチェックする際にも、ベンチマークとなる値を持っています。
『Dairy Japan』2023年2月号, p.57より抜粋
チェック項目として更新割合、なかでも第四胃変位の発生によるものや、分娩後60日以内の死亡割合を確認し、自身の牛群と照らし合わせ目標値を設定します。
このとき注意すべきは、更新にはネガティブなものだけでなく牛群の能力を高めるための積極的な淘汰なども考えられることです。ただ更新割合だけ見るのではなく原因別に分析する必要があります。
●コーネル大学の例
米国コーネル大学獣医学部のホームページでは、移行期牛群のベンチマーク(Transition Cow Benchmarks)として基準となる数値が公表されています。
『Dairy Japan』2023年2月号, p.57より抜粋
自身の牛群の状況を分析し、上記表の数値を見比べてみると今取り組むべき課題が見えてきます。
●ハードヘルス学ユニットの取り組み
酪農学園大学ハードへルス学ユニットの取り組みは、獣医学類の学生が将来生産現場で活躍することを想定し、実際に農場に訪問し乳牛のさまざまなスコアリングや血液検査などを行ない、学ぶ機会を設けています。また得られたデータから農場にわかりやすく説明するための資料作成についても学びます。
獣医師や畜産技術者、研究者(大学)はそれぞれが連携して農場をサポートしていく必要があります。当ユニットは、データや分析値から改善につながる提案ができることを目指しています。
PROFILE/ 筆者プロフィール
前田 真之介Shinnosuke Maeda
Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。