
引き続き、搾乳立会に取り組んでいます。立会をしていると、搾乳は精神的にも肉体的にも本当に大変な仕事だなと思います。
前回、ミルカーチェックをすることにより、問題点を発見することができました。その問題点を農家さんにお伝えし、業者さんにメンテナンスしてもらえば機械的には改善します。しかし、これだけではOKとはならないのが搾乳の奥深いところです。
機械の問題をクリアすると次に大きく立ちはだかるのは、搾乳手技という壁です。
搾乳手技に関しては、皆さん「思い」が強く、それが正しければ良いのですが、すべてが良い農場はなかなか出会うことはありません。
「なかなか体細胞数が下がらない」「乳房炎が減らない」などの問題が発生した際には、乳房炎の治療と並行して取り組むのが搾乳手技チェックです。
エサや牛の改良などを一所懸命考え、乳量を増やそうとさまざまな取り組みをするものの、搾乳手技がいまいちでは、完熟した果実を収穫するときに、その果実を地面に叩きつけてしまうことと同じなのではと思います。
さまざまなチェックポイントがありますが、重視するのは以下です。
①前搾り方法
②乳頭の洗浄、汚れの拭き取り
③前搾りからのミルカー装着までの時間
④離脱のタイミング
われわれは、搾乳手技を観察しながら、以前ご紹介したラクトコーダーという機械を使い、搾乳が正しく行なわれているのかを科学的に検証します。
①前搾り方法
前搾りは、搾乳という仕事のなかで非常に重要な部分です。そこでの刺激がオキシトシンの分泌を促し、泌乳のためにはとても大切であるということは、皆さんご存知だと思います。
上手に前搾りができている農場では、ミルカーを装着してから流量が速やかに立ち上がり、ラクトコーダーで調べると理想的な流量の波形になっていることが多いです(図1)。
しかし、刺激が不十分だと図2のように最初の立ち上がりがうまくいかずに、一旦ミルクが出にくい状況が生まれ、全体として搾乳時間が長くなるという問題が起こりやすくなります。
前搾りの刺激(回数)は農場によってさまざまです。刺激が弱い農場では前搾り回数は2回くらいですし、前搾りでのミルクの量も非常に少ないです。「ピュッ、ピュッ」という感じです。対して、波形が綺麗な農場での前搾りは、回数は5回くらいですし、乳頭の上から乳頭の先端に向かってしっかり搾っていてミルクの量も多いです。「ジュー、ジュー、ジュー」という音です。前搾り一つをとってもそれぞれのやり方があり、非常に奥が深いなと感じます。
今、搾乳を見直すなかで参考にさせていただいているのは、北海道の酪農家さんである田中傑さんのYou Tube(動画)です。非常にわかりやすいので、農場での搾乳手技に疑問を持たれている方は、そちらを見てください。やはり映像は説得力が違います。

図1 前搾り良好、装着までの時間良好だと速やかに流量が立ち上がる

図2 前搾りの刺激が不十分だと立ち上がりがスムーズでなくなり搾乳時間が長くなる
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PROFILE/ 筆者プロフィール

宮島 吉範Yoshinori Miyajima
千葉県の一般家庭に生まれる。麻布大学 栄養学研究室を卒業後(有)あかばね動物クリニックに入社し獣医師として25年。現在は、乳牛・肥育牛(主に交雑種)・繁殖和牛を担当する。乳牛においては診療・繁殖検診・搾乳立会・人工授精・受精卵移植・コンサルティングなどを行なう。趣味は妻との居酒屋や蕎麦屋巡り。