酪農技術情報

意識の変化が良乳質を保つ

JOURNAL 2025.01.09

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan』2024年10月号p.42「ルポ2」より

茨城県小美玉市で経産牛130頭を飼養する株式会社美野里牧場。酪農未経験から実家の経営を継承し10年。現在まで安定した乳質を保っています。良乳質を保つために意識しているポイントを聞きました。

ゼロからの酪農経営

 株式会社美野里牧場の4代目である外之内加奈さん(38歳)は、大学卒業後オーストラリアでスキューバダイビングのインストラクターを務め、平成25年に帰国し、実家である同牧場に就農しました。「酪農経験は子どものときに搾乳や哺乳を手伝っていた程度で、ほぼゼロからのスタートだった」という外之内さん。
 まずは酪農の知識を身につけることを目標に一念発起した外之内さんは、人工授精師の資格取得を目指して勉強に励みました。無事に資格を取得し、平成28年に両親から経営を継承し、法人化して代表取締役に就任しました。現在は、加奈さんが経理と6次化を担当し、夫の智則さんが作業全般を担当しています。

意識の変化

 代表就任後、次男の出産や祖母の介護などで、これまで家族を中心に行なってきた作業形態に大きな変化が生じ、作業効率が低下。乳量低下や周産期疾病の増加などで赤字を経験しました。これを契機に「無駄を省く」管理を意識し、乳量や乳質、繁殖成績をデータ化しました。従来の「不良乳質を避ける」という意識から、「良乳質で乳価を向上させる」という意識へと変化しました。

作業をアップデートする

 外之内さんの両親は以前から乳房炎牛を出さない管理を徹底しており、1日2回の牛舎清掃や石灰散布などで牛床の清潔を保つことで乳質を維持していました。この取り組みは現在も続けられ、さらに通路にはオガ粉やもみ殻、ケイカルを散布して水分調整を行なっています。また、牛舎の設計上、パーラーから牛舎までの距離が比較的長く、牛舎に戻った牛は横臥するまでに30分ほどの時間がかかり、乳頭口が閉じてから横臥することも乳房炎防除に奏功していると言います。
 さらに乳房炎が疑われる牛には迅速に乳汁検査を行ない、原因菌に合った治療で早期回復と感染拡大の予防に努めています。

搾乳手順を徹底

 アルバイトが搾乳作業を担当している同牧場では、搾乳手技により乳量や乳房炎などに影響が出ることをしっかりと認識してもらい作業にあたるようにしています。
 初めて搾乳を担当する人には、慣れるまで智則さんが付き添い、搾乳手順を覚えてもらいます。「作業に慣れてくるとスピードが上がり、その人それぞれの癖なども出てくる。それが牛にとってストレスになり、乳量は落ち、乳房炎になる可能性も出てくる」と、搾乳スピードよりも手順を間違えないように丁寧な作業を行なうことを重要視しています。
 こうした取り組みにより、就農時よりも乳質が良くなり、プラスアルファの乳価を得る回数が増えました。「規模が大きくなっていくにつれて、経費や作業時間も増えていく。こうした取り組みで得られる収入を大切に考えている」と言います。

安心・安全な商品を届けるために

 10月に牧場カフェをオープンした同牧場。先代が建てた既存牛舎を改築した加工所で牛乳やバターなどを製造販売し、地域との交流を深めています。外之内さんは「販売する商品は牧場の顔となるので、安心・安全で美味しいと言ってもらえるようにしたい。そのためにも、より一層、乳質や乳成分にこだわっていきたい」と決意を語ってくれました。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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