ルミノブログ11:自給粗飼料のロスを防ぐには?
JOURNAL
こんにちは、ルミノロジー研究室の泉です。今回は、自給粗飼料のロスについて考えてみました。
私達のいる道央地区は、夏は暑くなるのでグラスサイレージ調製に注意が必要です。それは材料草の“乾きすぎ問題”です。実は、今開封しているバンカーサイロですが、6月後半に収穫した一番草です。このサイロは、刈取時の熟期が遅れてしまい、牧草本体の水分が低くなっていたことに加え、刈り倒した材料草も好天によって乾きすぎてしまいました。
パサパサの材料草をバンカーサイロに詰めると踏圧が効きません。ショベルによる踏圧が効かないと、サイロ内に空気が残留してしまいます。乳酸菌は空気(酸素)が嫌いなので、思ったようにサイレージ発酵が進みません。
一方で、酵母やカビ類といったサイレージにとって好ましくない微生物は、夏場のような暖かい状況で酸素があると爆発的に増殖します。酵母はサイレージの二次発酵(発熱)に関係します。サイレージやTMRの残飼などでホカホカと湯気の立つ状態は酵母の仕業です。熱を持つサイレージは空気を含んでいる証拠なので、酸素がないと生息できないカビも大量発生してしまいます。高水分サイレージでは酪酸発酵という悩みがありますが、低水分サイレージの場合は二次発酵という問題が浮上するわけです。本当にサイレージ発酵は難しいです。
このようにして劣悪サイレージができてしまうと、日々の廃棄作業という問題が生じます。サイレージの廃棄には複数のロスが伴います。
①廃棄に伴う飼料のロス
②不足した粗飼料の代替飼料を購入するロス
③乳生産へのダメージのロス
④廃棄に伴う人件費のロス
⑤廃棄サイレージによって増えた堆肥を処理するための人件費やエネルギーのロス
思いつくだけでもさまざまなロス=ムダな支出が生じます。
往々にして廃棄するようなサイレージは栄養価も低いので、有形無形で牛体やルーメンにダメージをもたらします。仮に、目に見える劣化した部分のサイレージを大きく取り除いたとしても悪影響はゼロにはできません。発熱したサイレージを与えると期待したほどの乳量を得ることは難しくなりますし、逆に乳量を得ようとすると購入飼料を多給しなくてはいけなくなります。
サイロを廃棄するための労力もハンパじゃないです。堅く締まったサイロからフォークを使って人力で悪い部分を取り出そうとすると、グッタリと大汗をかく作業になってしまいます。ショベルのバケットに取り除いたサイレージは堆肥盤に運ばれていき、廃棄されます。労力とエネルギーをかけて畑から牧草をサイロに運搬して、今度はそこから労力とエネルギーをかけて堆肥盤に運搬し、最後に同じく人の手とエネルギーを使ってそれらを畑に戻す……。1年間をかけて壮大でムダな運搬をしていることになります。
かように、劣質サイレージを作ることは経営に対するダメージが大きいのです。サイレージ作りは基本を徹底すると、ほぼ失敗しませんが、その基本を守れないのも現実です。サイレージ作りのプロフェッショナルの養成が必要だと感じています。
PROFILE/ 筆者プロフィール
泉 賢一Kenichi Izumi
1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。