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職業観

JOURNAL 2024.10.18

石田 陽一

石田 陽一Yoichi Ishida

 朝の連続テレビ小説「虎に翼」が9月いっぱいで終了しましたね。皆様もご覧になっていましたか? 今回は、主演を務めた伊藤沙莉さんが書かれたエッセイ「【さり】ではなく【さいり】です。(KADOKAWA)」の中で感銘を受けたエピソードをご紹介します。

 伊藤さんのチャームポイントといえば、ハスキーボイス。私はたまたま、あるドラマで見かけたときから声に惹かれ、以来ファンになってしまいました。でも若い頃はコンプレックスで自信もなく、なかなかお仕事が増えなかったそうです。そんなとき、共演した藤田由美子さんやリリーフランキーさんに、「とても説得力のある素敵な声ね。大切にしてね」と褒められ、「じゃあそうなんだ!」と思うようにしたそうです。「コンプレックスは、意外にも特別な個性や魅力に大変身することがある。簡単に見捨てないで、向き合うことも悪くない」と結ばれ、私自身の経験と重なり、とても共感しました。

 2008年に就農した私は、当時、酪農家という職業に全然自信を持てず、やっていけるか不安でいっぱいでした。2007年頃からの飼料価格高騰により業界全体が厳しい情勢でしたし、乳房炎が頻発したり、3Kなどと言われていたりと、良くない方向にしか考えられませんでした。

 そんなとき、ふと仕事を表わす漢字が気になり、考えてみました。

・〜家
・〜士
・〜師
・〜者
・〜官
・〜手

など、いろいろな漢字があります。そして、それぞれに意味があるように感じます。酪農家のほかに、“家”がつく職業って何があるのだろう? すると、漫画家・作家・作曲家・舞踊家・彫刻家・料理研究家・建築家・書家・写真家・演出家など、芸術的な職業が多いことに気がつきました。

 アーティストとは、自らの創造物により、人々に感動を与える職業です。「それならば、酪農家も人々に感動を与える職業ではないか。牛という奇跡の動物の生理原則に従い、あらゆる自然の摂理を融合させる総合芸術。それにより創造される生乳により、人々の笑顔や体をつくるアーティストだ」。そう気づいたとき、全身に電気が走り、それをきっかけとして、酪農家としての自分に揺るぎない自信が生まれたのです。

 自信がある・自信がないは紙一重で、ちょっとした気づきによって、あるいはときに根拠のない健全な思い込みによって、目の前の景色はいかようにも好転するものだと今では確信しています。

 「虎に翼」の最終話。伊藤さん演じる寅子は、仲間に向かってこう問いかけ、エンディングへ向かいます。
「皆さんにとって、法とは何かしら?」
 「法」を「酪農」に言い換え、じっくり自分自身と向き合ってみるのも悪くありません。

PROFILE/ 筆者プロフィール

石田 陽一

石田 陽一Yoichi Ishida

1984年神奈川県生まれ。2007年酪農学園大学卒業後、ニュージーランドの大規模酪農場に1年間勤務の後、家業に就農。
2011年ジェラート屋めぐりを創業、法人化。年間来場者数約6万5千人の牧場を運営。
2014年より現職。石田牧場グループCEO

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