らくちっくラジオの寺内です。
前回はゲノム検査を用いた牛群の遺伝改良の4ステップについてお伝えしました。今回は遺伝改良について、もう少し踏み込んだ解説をします。
まず、牛群の遺伝改良で一番大切なのは【精液選択】です!
どんな種雄牛を使用するのかが、3年後の初産牛達の遺伝能力を決め、4・5年後の牧場経営に大きく影響します。また、その遺伝子は長く後継牛に引き継がれていきます。この精液選択の方法に大きな変化が起こりました。
【ゲノム】と【総合指数】の登場です。
かつて精液選択は、PTAという推定値を評価軸として、種雄牛リストの形質(能力値)を見比べながら選ぶことが一般的でした。これでは改良に詳しくないと、どう選んでいいのかわからないことが多かったと思います。また、詳しくても各形質の基準値は恣意的になりがちで、形質ごとの遺伝的な関連が無視されていました。そこで近年、PTAはゲノム情報に、選択基準は総合指標へと変化しています。
総合指数を用いることでわかりやすく種雄牛を比較し、バランスの取れた改良ができるようになりました。総合指数にはいろいろあり、国産精液ではNTPが用いられ、米国精液や牧場のゲノム検査ではTPIもしくは経済的指標のNM$(ネットメリット)を用いることが一般的です。私はNM$を基本として、健康形質に特化した総合指数DWP$も参考にしています。
ゲノムという高解像度の地図と、総合指数というシンプルな羅針盤を得て、遺伝改良について目指す方向へブレずに進みやすくなったと言えます。ゲノム検査(SNP検査)技術も総合指数の考え方も種雄牛のために始まり、じわじわと民間牧場の牛群改良に用いられるようになりました。
次回はこれらの技術を、牧場経営の戦略にどう活かしていくか、という目線でお話しします。
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PROFILE/ 筆者プロフィール
寺内 宏光Hiromitsu Terauchi
北海道にて酪農場勤務と㈱トータルハードマネジメントサービスでの修行を経て、2016年より栃木県にて家業の寺内動物病院を三代目として継承。より広く地域のニーズに応えるため2022年より法人化し、現在は獣医師4人在籍する㈱寺内動物病院の代表