『Dairy Japan 2023年4月号』p.72「連載・疾病別 ワクチンの特性とその使い方 その9」より
子牛の飼養管理で一番の心配と言っても過言ではない下痢症。
子牛の下痢予防の原則は、(1)十分な初乳給与、(2)免疫の増強、(3)病原体の侵入・拡散防止の3点だと言う加藤肇獣医師(NOSAI北海道 ひがし統括センター 釧路東部支所 姉別家畜診療所。以下、著者)が、詳しく解説してくださいました。
●初乳給与の下痢予防効果
子牛の下痢、そして下痢による死亡を減らすには、初乳を適切に給与することが最も重要であると著者は明言しています。
初乳は腸管における局所免疫として重要な役割を担っていますが、それは生後3日から4日しか持続しません。しかし生後4日以降、初乳の抗体は血液中の抗体価上昇による液性免疫として作用します。それが長期間持続するので、初乳の給与が3カ月から4カ月間も感染予防効果を発揮する理由です。
著者は、現場調査で下痢発生子牛の糞便から多種の病原体が検出されたこと、また下痢発生子牛は下痢だけでなく、ほかの病気に対する抗体価も極端に低かったことを解説しています。
●母牛の免疫増強
下痢症の病原体に対する母牛の免疫を増強することによって、子牛への移行免疫を増強させることを目的としたワクチンがあります。その一つである「下痢5種不活化ワクチン」は、乾乳中の母牛に接種することで十分な抗体価の上昇が得られ、そして初乳を介して移行抗体を十分に賦与することで、大腸菌による子牛の下痢を予防することが可能であるとされています。
また最近は、サルモネラ菌やクロストリジウムによる下痢も増加傾向にあることから、「ボビリスS」や「キャトルウィン-CL5」の母牛への接種も推奨されます。
さらに、子牛の下痢症は肺炎を併発する場合が多いことから、生後早い段階で鼻腔内投与型の呼吸器病ワクチン「TSV-3」の投与も推奨されます。
●病原体の侵入・拡散防止
これについては、分娩房・哺育施設・哺乳期群・代用乳調製時の汚染防止など、一般衛生管理を徹底して行なうことだと著者は強調しています。
とくに分娩房がなく一般牛舎内での分娩においては新生子牛への感染機会が高まるため、さまざまな工夫が必要であると注意を促しています。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。