農業経営の事業承継では、農地や農機具を引き継ぐだけではありません。経営状況や資産、人材、技術などを整理し、後継者へ正しく引き継ぐことが重要です。
近年は農業従事者の高齢化が進み、事業承継は多くの農業経営者にとって避けて通れない課題となっています。しかし、何から始めればよいかわからず、準備が後回しになっているケースも多いでしょう。事業承継を円滑に進めるためには、まず現在の経営状況を整理し、「見える化」することから始めましょう。
『失敗したくない! 経営継承準備のヒケツ「Dairy Japan2025年9月号」』 筆者:小島 拓也(税理士法人 小島会計・代表)以下、要約。
定期購読はこちら
なぜ事業承継で現状把握が重要なのか

事業承継では、経営者と後継者の間で認識の違いが生じることがあります。経営者は把握しているつもりでも、後継者が実際の経営状況や課題を十分に理解できていないケースは珍しくありません。そのため、売上や利益、負債、資産などを整理し、誰が見てもわかる状態にしておくことが重要です。現状を見える化することで、後継者は経営判断をしやすくなり、承継後のトラブル防止にもつながります。
また、整理を進める過程で、経営者自身がこれまで見過ごしていた強みや課題に気づくこともあります。事業承継の準備は、単なる引き継ぎ作業ではなく、経営を見直す良い機会にもなるのです。
まずは経営状況を整理しよう

事業承継において最初にすべきは、経営状況の確認です。売上や利益、経費の推移を数年単位で振り返ることで、事業の成長性や安定性を客観的に把握できます。
さらに、借入金やリース債務、未払金などの負債についても整理しておきましょう。返済スケジュールや担保の有無を確認することで、承継後に発生する可能性のあるリスクを把握しやすくなります。
また、現在抱えている経営課題も洗い出しておくことが大切です。売上の減少や人材不足、設備の老朽化などの課題を整理することで、後継者が優先的に取り組むべき事項が見えてきます。
事業承継前に確認したい項目は、以下になります。
- 売上・利益の推移
- 借入金や負債の状況
- 農地や農機具などの資産
- 従業員や後継者の状況
- 技術やノウハウなどの無形資産
一つ一つをしっかり確認し、ヌケやモレがないようにしましょう。
資産状況を整理する

経営状況の確認と合わせて、承継対象となる資産の整理も進めましょう。代表的な資産は次のとおりです。
| 資産・負債の承継 | |
| 有形資産 | 有形資産:農地(面積・地番・所有/借用)、建物、農機具、車両、家畜、樹木(補助金充当の有無) |
| 財務資産 | 現預金、売掛金、投資資産 |
| 負債 |
借入金額、リース債務、未払金 |
| 経営課題の承継 | |
| 売上・利益 | 年度別売上高、営業利益、経費の内訳 |
| 組織・人材 | 従業員数、役割、後継者候補 |
| 経営課題 | 売上減少、人材不足、設備老朽化など |
| 無形資産 | 技術ノウハウ、ブランド、取引先リスト |
農地や建物、農機具、車両、家畜などの有形資産については、所有か借用かを確認しながら一覧化します。また、資産価値や老朽化の状況、補助金の活用状況なども整理しておくと、後継者が状況を把握しやすくなります。
一方で、事業承継では目に見えない資産も重要です。長年培ってきた飼養技術や経営ノウハウ、取引先との信頼関係、地域とのネットワークなどは、農業経営を支える大切な財産です。
こうした無形資産は帳簿には表れませんが、経営の安定や成長に大きく影響します。そのため、後継者へどのように引き継ぐかも考えておく必要があります。
情報を一覧表にまとめる
整理した情報は、紙やデジタルデータで一覧表にまとめておくことをお勧めします。
一覧化することで、家族や後継者、税理士などの専門家との情報共有がしやすくなります。また、後継者が経営全体を把握しやすくなり、承継後の意思決定もスムーズになるでしょう。
農林水産省では「農業の経営承継に関する手引き」や「農業経営未来ノート」を公開しています。こうした公的資料を活用することで、確認漏れを防ぎながら準備を進めることが可能です。
事業承継の第一歩は現状把握
事業承継を成功させるためには、まず経営状況や資産状況を徹底的に洗い出し、「見える化」することが重要です。
現状を整理することで、家族や後継者との認識のズレを防げるだけでなく、経営者自身が経営資源や課題を再確認する機会にもつながります。事業承継は資産の引き継ぎではなく、経営理念や技術、地域とのつながりを次世代へ受け継ぐプロセスです。
安心して次世代へバトンを渡すためにも、まずは現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。
▼詳しい実践方法は『Dairy Japan2025年9月号』に掲載しています。
月刊Dairy Japanバックナンバーページ
▼まずは1冊だけ試したい方は「試し読み」も可能です。
Dairy Japanを試し読みしませんか?
