米国最新のDD(趾皮膚炎)コントロール知見を共有〜護蹄研究会 セミナーレポート
護蹄研究会(阿部紀次会長)は、2026年3月20日(帯広)、21日(別海)、23日(江別)の3日間にわたり、「蹄管理特別プログラム2026」を開催しました。本プログラムでは、米国ウィスコンシン大学からDörte Döpfer(ドルテ・ドーファ)教授をお招きし、最新の研究や米国の事例をもとに、蹄管理や跛行(はこう)に関する貴重な情報提供が行なわれました。

Döpfer教授は、蹄病、とくにDD(趾皮膚炎)研究における世界的権威として知られています。DDの原因となるトレポネーマ属菌の解明や、蹄浴のオペレーションなどに造詣が深く、DDの病変状態を評価する「Mステージ」分類を確立したことでも有名な先生です。

3会場それぞれで異なるテーマが設けられ、米国の蹄管理事情や搾乳ロボット牛群における蹄管理、DDの目合わせ、跛行に関する教育体制の動向など、多彩なトピックスが取り上げられました。ここでは、酪農学園大学(江別会場)で行なわれた講演内容の一部をご紹介します。
DD(趾皮膚炎)のリスク要因と牛に寄り添う管理の重要性
DDの発生には、通路のぬかるみといった不衛生な環境や過密飼育、温かい時期に多発する季節要因など、実に多くのリスク要因が潜んでいます。また、牛群の移動による感染伝播のほか、特定のペン(牛房)でのみ多発する「ペンエフェクト」や、ホルスタイン種のように遺伝的にDDに罹患しやすい個体の存在も挙げられます。
こうしたなかで管理者に求められるのは、定期的な予防策はもちろんのこと、牛にストレスを与えない「ストックマンシップ」です。急旋回や急停止など、牛に予期しない動きを強いてしまうと、趾間(牛の指の間)の皮膚が急激に引き伸ばされて小さな傷ができてしまいます。この微小な障害が微生物の感染源となり、DDを誘発しやすくなるため、日々の優しい牛の扱いがとても大切になります。
組織学から読み解くDDの病態と「治療のやりすぎ」への注意
DDの主な原因はトレポネーマという細菌の感染と言われていますが、その病態は少し複雑です。Döpfer教授はDDの進行度を「Mステージ」で分類しています。正常な皮膚(M0)から始まり、2cm以下の小さな病変(M1)を経て、2cm以上の急性潰瘍(M2)へと進行します。その後、黒いカサブタができる治癒段階(M3)を挟み、皮膚が分厚くタコのような状態になる慢性化(M4)へと至るというサイクルです。
ここで気をつけたいのが、「治療のやりすぎ」が招く悪循環です。良かれと思って酸性の強い薬剤などで過度な蹄浴や局所治療を行なうと、その強い刺激が新たな炎症を引き起こしてしまいます。すると、炎症のシグナルが皮膚の奥(真皮)から表面(表皮)へ伝わり、ケラチン細胞が異常に増殖してしまうのです。DDが頻発して困っている農場では、こうした刺激による悪循環が断ち切れていないケースがよく見られるそうです。
病態に基づいた予防戦略と経済的損失を防ぐために
DDコントロールにおいては、ただ強い薬を使えば良いというわけではありません。まずは皮膚表面が常に汚れに触れないよう施設の衛生状態を保ち、感染の原因となる「微生物マット」の形成を防ぐことが基本です。あわせて、皮膚のバリア機能や回復力を高めるための栄養管理も欠かせません。
また、急性潰瘍であるM2病変の早期発見・早期処置も重要なポイントです。削蹄師さんの定期訪問を何週間も待つのではなく、農場側で発見次第、速やかに標準的な治療を始めましょう。とくに、初産牛がDDにかかったまま搾乳牛群に混ざることは大きなリスクです。初産牛が罹患すると、空胎日数が延び、分娩後の泌乳量が合計450kgも低下するといった深刻な経済的損失を招くことが分かっています。
農場ごとに最適な持続的DDコントロールを
会場からの「適切な蹄浴の運用方法は?」という質問に対し、Döpfer教授は「刺激が強すぎるのは良くありませんが、薄すぎるのも意味がありません。蹄浴を行なっても浴槽内の細菌数が上がりすぎない濃度を保つことが大切です」と回答されました。たとえばホルマリンを使用する場合、3%濃度のものを週3日程度から開始し、効果を検証していく方法を一例としてあげています。
とはいえ、最適な選択肢は農場ごとに異なります。持続的なDDコントロールプログラムを成功させるためには、「なぜその予防戦略をとるべきか」をしっかりと理解し、自農場の原因や牛の病態、発生のタイプを正確に把握することが何より重要です。牛の足元を健やかに保つ丁寧な蹄管理が、酪農経営の強い基盤となってくれるはずです。
PROFILE/ 筆者プロフィール
Dairy Japan編集部Dairy Japan Editorial Department
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