酪農役立ちコラム

ルミノブログ27 飼料設計ソフトの進化

JOURNAL 2025.12.26

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

 関東のこの冬ですが、寒さは平年並みなのでしょうか? それとも暖冬?
 12月中旬を過ぎたこの時期、朝はさすがに冷えますが、犬の散歩などでちょっと厚着をして出ると、すぐに暑くなってしまいます。こちらの方は早々とダウンジャケットを着ていらっしゃいましたが、北海道感覚では現時点でも秋物のアウターで十分にいける気温帯です。お会いした方が口々に昨今の猛暑をさして、夏と冬の“二季”しかないと語っていましたが、私にしてみると夏と「秋」の二季と言っても良さそうに思えてきます。はたして本格的な寒さが到来するのかどうか、これから訪れるであろう“冬”を待ってみようと思います。

皆さんが使用している飼料設計ソフトは?

さて、今回は飼料設計ソフトについて気になっていることを紹介しようと思います。

実は現場では、導入から年数が経ったソフトを継続利用しているケースが少なくありません。最新のソフトは海外製が中心で、10万円以上と高価になりやすく、更新や新規導入のハードルが高いのが実情だからです(円安は痛い……)。

古いソフトには、操作に慣れている、入力が速い、過去データと比較しやすいといった利点があります。一方で、最新のソフトと比べると「同じ飼料条件なのに、計算結果が一致しない」場面が「想像以上に」多い点には注意が必要です。

 近年の最新ソフトはCNCPS(Cornell Net Carbohydrate and Protein System)Ver6.5.5以降に準拠しているものが増え、エネルギー評価やタンパク分画、消化率の推定などが新しいモデル式に基づいて構築されています。
 CNCPSとは、飼料設計ソフトに用いいられる計算エンジンのことで、身近なところでたとえますと、パソコンに搭載されているOSのようなイメージと言えば良いでしょうか。モデル式が更新されれば、計算の前提も変わります。その結果、旧来ソフトとの間で計算過程に違いが生じ、最終的な予測値にも差が出てきます。

飼料の成分値も正確な値を入力したい

最新版はかなり変化している

実際に私も、新旧のソフトで同様の飼料を用いて試算してみました。粗飼料・濃厚飼料の構成や成分値、牛の情報などの条件をできるだけ揃えて設計しましたが、乳量の予測値は大きく異なりました。「どちらが正しい」と単純に言える話ではないですが、同じ入力なら似た結果になるという発想は通用しないことがわかりました。

このズレの背景には、DMIや乳牛の種々の要求量の見積もり、繊維や発酵性炭水化物の消化速度、微生物タンパク質の合成量予測、入力可能な飼料成分値など、複数の要因が積み重なっています。最新の計算モデルでもCNCPSとNASEM2021では結果が異なってきます。
 つまり、予測値の違いは、どのモデル・どの前提で計算したかに強く依存するということです。

価格の壁がある以上、すべてを最新に揃えるのは現実的ではありません。だからこそ、旧ソフトを使う場合でも、代表的な飼料条件で最新ソフトの結果と突き合わせ、どこでどれくらいズレるかを把握しておくことは、一度やっておいて損はないでしょう。飼料設計ソフトは有用な道具ですが、答えは固定ではなく、モデルの更新とともに変わります。古いソフトを使い続ける場合でも、その前提を理解し、結果の解釈に気を配るだけでも、飼料設計の質は上がるでしょう。

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。1浪の末、北大に入学。畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。修士修了後、十勝の酪農家で1年間実習し、酪農学園大学附属農場助手として採用される。ルミノロジー研究室の指導教員として学生教育と研究に取り組むかたわらで、酪農大牛群の栄養管理に携わる。2025年4月、27年間努めた酪農大を退職し、日本大学生物資源科学部に転職する。現在はアグリサイエンス学科畜産学研究室の教授。専門はルーメンを健康にする飼養管理。最近ハマっていることは料理と美しい弁当を作ること。

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