イベント/HotTopics

酪農女性サミット2025開催! 全国から酪農を頑張る方々が集まり交流③

JOURNAL 2025.12.23

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

牛の土台を支える女性削蹄師の流儀と技術

2日間に渡る酪農女性サミット2025。2日目の講演では、株式会社G’dayHoofCareの佐藤麻耶さんが登壇。「牛の土台」となるの蹄の専門家、削蹄師の視点から、プロフェッショナルとしての考えと、明日から役立つ蹄管理の技術が共有されました。

「力仕事」のイメージを覆した、機能的削蹄との出会い

 現在は削蹄会社「株式会社G’dayHoofCare」の代表として、全国各地の酪農場で定期削蹄を行なう佐藤さん。牛との関わりは、ある牧場に務めたところから始まりました。意外なことに「元々は牛が好きではなかった」と語ります。酪農場で子牛から育て、育成牛・搾乳牛へと成長する過程に触れ、「自分が頑張れば頑張るほど、牛が応えてくれる」酪農の面白さ、牛の魅力を知っていったと言います。

 さらに「多くの牛のためになる」を軸にしたステップアップを考えたとき、知り合いの獣医師から「削蹄師」という仕事を紹介されます。当時の農場でも定期削蹄は取り入れていたものの、削蹄は「男性の力仕事」というイメージが強くありました。
 そんな折、佐藤さんが出会ったのはCow Happyの林タカヒト氏が提唱する「機能的削蹄」でした。油圧式の削蹄枠や電動工具を使用し、人力に頼らず理論的に牛をケアする手法でした。

 「これなら私にもできるかもしれない」

 女性の削蹄師がほとんどいない時代、入門には苦労もありましたが、熱意でその扉をこじ開け、現在までキャリアを築きます。

蹄は「牛の土台」である

 削蹄の仕事とは、ただ単に牛の伸びた蹄を切ることではなく「牛が真っ直ぐ立てる土台を作ること」と佐藤さんは言います。土台が安定して初めて、牛は当たり前の生活ができ、持っている能力を100%発揮できます。その環境を整えるのが削蹄師の仕事です。
 佐藤さんは蹄に関する構造の説明や、牛のどの部分に体重がかかるか? などをわかりやすく解説してくれました。
 本来、牛は土の上を歩きながらエサを食べます。土の上であれば、爪が伸びても柔らかい地面に刺さることでバランスを保てますが、コンクリートの床が多いフリーストール牛舎ではそうはいきません。硬い床の上で爪が伸びると、接地角度が変わり、牛は真っ直ぐ立てなくなります。これが蹄底潰瘍や白帯病などの原因となります。だからこそ、定期的な削蹄による「リセット」が不可欠ということです。

 また、すぐに現場に持ち帰れるトピックスとして、「蹄浴と蹄浴剤」について紹介がありました。蹄浴は、蹄の感染症である肢皮膚炎(DD)の対策として実施されますが、よく「どの蹄浴剤が良いか」と聞かれることが多い佐藤さん。それに対しては、「井戸水などを使用している酪農場では、地域によって水のpHが違うことが多々ある。まずは自農場の水質を知り、そのうえで蹄浴剤を選んでゆけば良い」と、まずは自農場の状況を確認することを薦めました。

個の力」から「チームの力」へ

 現在は自身の活動だけでなく、人材育成にも力を入れている佐藤さん。「個人の力は小さいけれど、チームを組めば大きなことができる」と、多方面で削蹄師育成や農場とのやり取りを強化していきます。

 牧場スタッフ、削蹄師、獣医師などが密にコミュニケーションを取り、チームとして牛に向き合うことで、管理レベルは確実に向上します。佐藤さんは「仕事上のやり取りのみではなく、幅広く関わることでお互いを知り、より良い関係を築いていきたい」とまとめました。

 本サミットは、こうした講演やトークセッションに加え、参加型のワークショップなどさまざまなコンテンツのほか、共産企業によるブース出展で新たな商品・サービスに出会えたり、懇親会では地域を超えたコミュニケーションが生まれ、盛況の2日間でした。

 

PROFILE/ 筆者プロフィール

前田 真之介

前田 真之介Shinnosuke Maeda

Dairy Japan編集部・北海道駐在。北海道内の魅力的な人・場所・牛・取り組みを求めて取材し、皆さんが前向きになれる情報共有をするべく活動しています。
取材の道中に美味しいアイスと絶景を探すのが好きです。
趣味はものづくりと外遊び。


RELATED/ 関連記事

記事についてのお問い合わせ

error: クリックできません!