子牛は出生直後、免疫がほとんどなく、体温低下や呼吸不全など重大リスクにさらされています。そのため「最初の1時間」で適切な管理を行なえるかが、その後の健康や成長を大きく左右します。
本記事では、呼吸・体温の安定、乾燥・保温、臍帯消毒、起立確認など、初乳摂取までに必ず押さえておきたい重要ポイントを、現場で使いやすい形で整理して解説します。
『Dairy Japan 2025年11月号』現場技術シリーズ「作業ごとのハズせない管理のポイント」より。著者:全国酪農業協同組合連合会 札幌支所 購買推進課 氏本 壮
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なぜ出生直後の管理が重要なのか

牛は胎盤構造の関係で、母牛から免疫成分がほとんど移行しません。そのため、子牛の免疫は初乳に含まれるIgGを腸から吸収できるかにかかっています。
しかし、吸収効率(AEA)は以下の要因で大きく低下します。
- 低体温
- 呼吸・循環の不安定
- 吸啜反射の弱さ
- 初乳給与の遅れ
とくに出生後1時間は、循環・体温・行動の安定化が起こる「黄金の1時間」と呼ばれ、ここでの管理がFPT(受動免疫移行不全)を防ぐポイントです。
【時系列でわかる】出生直後の管理 四つのステップ

1)分娩直後:呼吸・心拍・体温を安定させる(0〜10分)
出生直後の子牛は呼吸や循環が不安定で、低体温のリスクも高い状態です。まずは呼吸・心拍の確認と粘液除去を行ない、短時間で生命維持に必要な状態へ整えることが重要です。
呼吸・心拍の確認
呼吸:30〜60回 / 分、心拍:100〜150回 / 分
鼻や口に羊水や粘液があれば、側方に軽く傾けて重力排出→ガーゼで清拭します。過度な吸引は逆効果となるため注意してください。
呼吸が弱い場合の対応
耳・鼻・四肢の刺激、10〜15秒反応がなければ人工呼吸を検討(牛用人工呼吸器または口鼻法)
2)乾燥・保温(0〜20分)
濡れた被毛は急激な熱損失を招き、吸啜力の低下や初乳摂取遅れにつながります。全身を素早く乾かし、敷料や保温器具を使って体温38℃以上を維持することが初乳吸収効率を高めます。
新生子牛は濡れた被毛から急激に熱を失います。立ち上がり直後のサーモグラフィで、コンクリートへの熱伝導で体温が急速に失われる様子が確認できます。
必ず行なう保温措置
- 清潔なタオルを複数枚使って速やかに乾燥
- 敷料を厚く敷き、コンクリートに直接触れさせない
- 保温ジャケット、保温ランプ、温風機などを状況に応じて使用
低体温の判断基準
- 正常:38.5〜39.5℃
- 37.5℃を下回ると吸啜力・代謝が低下 → 初乳摂取量が減少 → FPTリスク上昇
必要に応じて温浴も検討し、初乳給与前に体温を38℃以上へ回復させることが望まれます。
3)臍帯消毒(出生後すぐ+6〜12時間後)
臍帯は病原体が侵入しやすい開放部位で、適切に処置しないと臍炎や肝膿瘍の原因になります。出生直後と6〜12時間後の2回、ヨウチン浸漬と周囲皮膚の消毒を行ない、早期乾燥を促すことが重要です。
推奨される方法
- 3%ヨウチンに30秒浸漬
- 基部・周辺皮膚を霧吹きで追加消毒
- 出生直後と6〜12時間後の計2回が望ましい
臍帯の自然乾燥が遅れると、臍炎 → 肝膿瘍へ進行する場合があります。
4)起立と行動チェック(出生〜60分)
健康な子牛は、17〜21分で起立を開始し、50〜60分以内に自力起立が完了します。
60分経過しても起立できない場合は、低体温・低酸素血症・疲労などの可能性が高く、初乳摂取量の低下につながります。すぐに体温・吸啜反射を確認し、必要に応じて獣医師へ相談しましょう。
AEA(初乳IgG吸収効率)を最大化するポイント

AEAの低下を防ぐポイントは、以下の四つです。
- 初乳は出生後できるだけ早く、適量を確実に摂取
- 乾燥・保温で体温を維持(38.5〜39.5℃)
- 呼吸・循環の安定化
- 初乳の衛生管理を徹底
とくに、低体温下での初乳給与を避けることが強調されています。腸管運動が低下し、IgG吸収が大幅に落ちるためです。
まとめ
出生直後の1時間は、子牛の生涯の健康を左右する最も重要な時間です。
避けるべき点は以下の三つです。
- 低体温状態での放置
- 不衛生な牛床環境
- 過度な刺激や不適切な取り扱い
適切な乾燥・保温、臍帯消毒、呼吸と循環の安定、行動チェックを確実に行ない、初乳摂取までの流れをスムーズにつなぐことがFPT防止につながります。
▼詳しい実践方法は『Dairy Japan 11月号』に掲載しています。
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