酪農技術情報

【福島県東白川郡塙町・らっきーべこファーム】未来を拓く酪農経営の挑戦

JOURNAL 2025.06.10

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan』2025年3月号p.46「特集ルポ2」より

酪農家になるという夢を持ち続け、第三者経営継承という形で新たな一歩を踏み出したご夫婦がいます。全酪アカデミーや地域の支援を活かしながら、牧場を引き継いだ高橋帆乃佳さん・純真さん夫妻の取り組みを紹介します。

学生時代から抱いてた夢

 2023年11月、福島県塙町で酪農経営を始めたのは、高橋帆乃佳さん・純真さん夫妻。埼玉県出身の二人は大学時代に出会い、学生の頃から酪農家を目指していました。卒業後は別々の仕事に就きながら情報収集を行ない、純真さんは削蹄師として、帆乃佳さんは全酪連で酪農について1年間学び、全酪アカデミーに入会しました。

全酪アカデミーでの学び

 全酪アカデミーでは、研修期間中に給与を受け取りながら、1年目は研修牧場で技術を学び、2年目以降は希望地域の農家で実習を行ないます。経営や法律の座学も含め、3年間で酪農経営の基礎を習得できます。

 純真さんは2期生として2022年に、帆乃佳さんは翌年に3期生として入会。コロナ禍を受け、オンライン形式の学びも取り入れられました。また、地域や行政との連携により、経営継承に必要な人脈作りにもつながります。

地域と連携したスムーズな経営継承

 髙橋夫妻が継承したのは、引退を予定していた佐藤勝さんの牧場です。全酪アカデミーに入会して3カ月後、純真さんは福島県酪農協を通じて佐藤さんと出会い、牧場の状態に感銘を受けました。帆乃佳さんも見学し、就農希望者がほかにもいたことから、その場で継承の意思を伝えました。夫妻の熱意に心を動かされた佐藤さんは継承を決意。通常3年のアカデミーのカリキュラムを前倒しし、関係機関と連携して早期継承に向けた準備がスタート。福島県酪農協や塙町、アカデミーが連携し、資産評価や資金申請、事業計画などを進めました。2023年10月から夫妻が佐藤さんの牧場に入り、佐藤さんから直接ノウハウを学び、翌月には正式に経営を引き継ぎました。

直面した課題と乗り越えた工夫

 スムーズな移譲の一方で、課題もありました。予定していた住居が使えず、数カ月は片道1時間かけて牧場へ通う日々。その後、塙町の支援もあり、住まいが確保されました。

 また、分娩移行期の管理不足による周産期病の増加や、発情発見の遅れによる繁殖成績の低下にも直面。佐藤さんや福島県酪農協の知恵を借り、管理方法の見直しや牛群検定やデータ活用で改善を図りました。現在では安定した牛群管理が実現しつつあります。

 さらに、就農直後に第一子が誕生し、子育てと酪農作業の両立にも苦労がありましたが、「佐藤さんに子守をお願いするなど、周囲のサポートがなければやり遂げられなかった」と夫妻は振り返ります。

夢をつなぐ場としての牧場へ

 「佐藤さんが築き上げた素晴らしい経営状態を維持しつつ、新たな人材に希望を与える牧場にしたい」と語る髙橋夫妻。未経験から酪農家になった自分達の経験を、次の世代の新規就農者の支援に活かしたいと考えています。

 全酪アカデミーを活用し、地域全体が支える形で進められた髙橋夫妻の第三者継承への挑戦は、後継者不足が深刻化する酪農業界に希望の光をもたらしました。この成功事例が、ほかの地域や新規就農者にも波及することで、持続可能な酪農業の未来を切り拓くことが期待されます。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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