酪農技術情報

【秋田県由利本荘市・(農)鳥海高原花立牧場】牛舎環境で心も変える

JOURNAL 2025.05.20

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

『Dairy Japan』2025年2月号p.46「特集ルポ2:寒冷時の牛舎寒気を考える」より

秋田県の鳥海山麓にある鳥海高原花立牧場では、厳しい寒さのなかでも牛が快適に過ごせる牛舎換気システムが構築されています。牛にも人にもやさしい環境を目指す、同牧場の取り組みを紹介します。

現在の経営に至るまで

 鳥海高原花立牧場代表理事の佐藤俊弥さんは、もともと地元・矢島町でジャージー種を飼養していましたが、2010年4月に指定管理者制度のもとで鳥海高原の公共育成預託牧場を引き継ぎ、ジャージー牛90頭を伴ってこの地で経営を開始しました。

 頭数の増加に伴い、旧牛舎の手狭さが課題となり、国の畜産クラスター事業の支援もあり、2020年4月に現在の牛舎が稼働しました。

 現牛舎の稼働にあたっては、2015年の北海道全共への参加や酪農家との交流を通じて搾乳ロボット牛舎に関心を抱くようになったことがきっかけだと言います。

自動換気システムがもたらす快適な空間

 当地域では冬場に氷点下10℃近くまで冷え込み、以前はウォーターカップの凍結や牛の食欲低下が問題となっていました。そんな課題を解決したのが、自動換気システム「SECCO」です。自然換気と機械換気を組み合わせたハイブリッド構造で、屋根上の換気口(チムニー)を通じて空気を排出し、常に清潔な環境を保ちます。外気温が氷点下でも牛舎内は3℃から5℃を維持し、アンモニア臭も軽減。断熱性能にも優れており、夏の暑さにも効果を発揮します。

 「乳量が増え、牛の健康状態も安定した」と佐藤さん。換気の管理が不要になったことで、従業員はほかの作業に集中できるようになったといいます。

雪国仕様の細やかな設計

 新牛舎は積雪にも強い設計になっています。屋根の庇(ひさし)は通常より1m長く設け、落雪から建物を守ります。

 また、飼槽通路やストール内に直接入れる入口を設けたことで、大型機械の進入もスムーズに。

 「どんな場合でも安全かつ効率的に運用できることを最優先に考えた」と話す佐藤さんの言葉どおり、牛にも人にもやさしい設計が随所に見られます。

現状を見つめ、前に進む

 牛舎稼働直後には情勢の悪化により、当初見込んでいた増築計画は一時見送りになったといいます。それでも「こんなときだからこそ、ロスを最小限に抑えることが最も重要だと考えている」と、佐藤さんは前を向きます。

 平均分娩間隔は400日をキープし、空胎日数の短縮に向けて従業員教育やデータの見える化にも力を入れています。関連企業と連携した勉強会も継続し、スタッフのスキルアップにもつなげています。

 「1頭1頭の健康を大切に、良いところをもっと良くしていきたい」と未来を見据え、歩みを進める佐藤さんの姿勢には、諦めない情熱が宿っています。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平

小川諒平Ryohei Ogawa

DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。

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