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ルミノブログ6:ルーメン原虫(プロトゾア)は良い存在?悪い存在?

JOURNAL 2024.08.06

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

 ルーメン液の中には無数の微生物が生息し、その数は健康のバロメーターともいえます。ルーメン原虫(プロトゾア)数の多いルーメン液は、それだけで好ましいものと認識されるケースが多いでしょう。

 そのようなお考えを否定するものではありませんが、私はルーメン原虫(プロトゾア)に対してあまり良い印象を持っていません。牛の健康管理という意味では、プロトゾアのたっぷりいるルーメン液は健康とみなされており、食滞牛などへの胃汁移植はポピュラーです。プロトゾアの多いルーメン液は健康である、これは誤りではないでしょう。

代謝蛋白には良くない

 一方で、あまり知られていないかもしれませんが、プロトゾアはルーメンを通過する代謝蛋白質(MP)にとっては抑制的に作用します。MPとは、ルーメンから流れ出て小腸で吸収される蛋白質で、ルーメン内で合成される微生物蛋白質とルーメンをバイパスする飼料由来蛋白質(RUP)になります。プロトゾアは、あろうことか、これら両方のMP源をルーメン内で食べてしまいます。つまり、プロトゾアが多いと小腸に流出するMP量が減る可能性があるというわけです。

 プロトゾアは、ルーメン細菌を貪欲に捕食するので、ルーメン細菌の総量に影響を及ぼすと言われています。さらにプロトゾアは蛋白質分解酵素を有しているので、ルーメン内の飼料由来蛋白質も消化してしまいます。彼らはお行儀の良い食べ方ではなく、食い散らかすように食べるので、大量のルーメンアンモニアが生成され、それらは完全に利用されず尿中や乳中に尿素として排泄されます(乳中の尿素はMUN)。

 したがって、プロトゾアがいるルーメン液は「健康=アシドーシスでないルーメン液」であることは事実かもしれませんが、窒素の利用効率という面からは好ましいことばかりではないのです。

 みすみす飼料効率が低下することを見過ごすわけにいきませんので、ルーメン内のプロトゾアを減らそうという取り組みがなされてきました。少し古いですが、アメリカの研究チームが、プロトゾアを減らす効果のあるラウリン酸という中鎖脂肪酸を添加給与した研究成果をご紹介します(Faciola and Broderick, 2014)。

 ラウリン酸を飼料添加すると、プロトゾア数は40%程度減少しました。ここまでは研究チームの思惑どおりです。ですが、添加区ではDMIは減らなかったものの、繊維消化率が低下して、乳量、乳脂率が低下してしまいました。プロトゾアは蛋白質分解酵素に加えて、繊維分解酵素も有しているため、その生息数が減ることで繊維消化に悪影響が及んだようです。また、本命の窒素利用効率もプロトゾア40%程度の削減では効果を確認することができませんでした。研究をやっているとよくあることですが、思ったとおりにはいかないものです。

 害獣や害虫であっても、それらを駆除して個体数を減らすと、かえって別の悪い生き物や害のある雑草が増えてしまうという話はよく耳にします。ルーメンの中も同じで、高度にバランスの取れた生態系がその中には存在しているというわけです。

 ルーメン液中を元気に泳ぎ回るプロトゾア、乳牛の栄養にとっては味方なのでしょうか? それとも敵なのでしょうか?

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。北大の畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。現在、農食環境学群循環農学類ルミノロジー研究室教授。2023年より酪農学園フィールド教育研究センター長。専門はルーメンを健康にする飼養管理。癒やしの時間はカミサンとの晩酌。

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