『Dairy Japan 2024年4月号』p.18より
「酪農場に出入りする車は『ハエ』を運んでサルモネラ症の媒介者になり得る」と阿部紀次先生(株式会社トータルハードマネージメントサービス・獣医師)が実証実験の結果を基に、解説してくださいました(以下、要約)。
実証実験(業務車両に入ってくるハエを調べてみた)
業務用自動車内のハエを捕まえる目的でハエトリ紙を仕掛けたのですが、せっかく捕まえたハエなので、その保菌状況を調べてみることにしました。日常業務中に侵入したハエからサルモネラ菌が検出されるかどうかの実証実験ですので農場は特定していません。
実験材料および方法
・2023年8月下旬からハエの数が減った11月中旬まで行ないました。
・弊社の獣医診療車および人工授精(移植)車のうち、合計9台の車内にハエトリシート(以後、シート。粘着紙1~2枚を段ボール板に固定したもの。写真)を設置し、どの農場から採取されたかを特定せずに、各自の判断で提出、回収しました。
・回収されたシートは合計17枚でした。
・各シートには15から352匹のハエが付着していました(写真)。
・回収したハエを潰して無菌的に1ml抽出したものを検体として細菌検査を行ないました。
サルモネラ菌が出てしまった……
17検体中1検体のみですがサルモネラ菌(O4型:Salmonella Typhimurium)が分離されました。また、ほかの菌もかなりの確率で検出されました。
サルモネラ症の発生は、汚染された食餌や水の摂取で起こります。にもかかわらず、農場訪問した際にエサにハエが群がっていたり、子牛の水桶にハエの死骸が浮いていたりする状況を目にすることがあります(写真)。もしもそのハエがサルモネラ菌を保菌していたら、容易に菌を摂取することになるでしょう。
出入りする車は媒介者になり得る
サルモネラ菌の伝播は、ハエはもとよりさまざまな媒介が考えられますが、もしも出入りの車でハエを運んでいるとしたら、ハエの自力での移動距離を突破させてしまうのです。ハエの駆除については徹底されるべきであり、他方、車での伝播の危険性も防除すべきです。
そこで対策! 農場と周辺産業の両輪で
神奈川県央家畜保健衛生所・廣田らは、車外のハエ対策として車体に「モノ,ビス(塩化トリメチルアンモニウムメチレン)-アルキルトルエン(商品名:パコマ)」の300倍溶液を塗布すると、何もしてない場所よりハエの寄りつきが目視で明瞭に減少した。また車内に侵入したハエについては、イソプロパノール99%に著効(イソプロパノールは即死させるが、消毒用エタノールは即死させない)があることを簡易的な実験とともに紹介しています。
イソプロパノールの散布は、殺虫剤や忌避剤散布より抵抗なく簡単にできることなので、今後取り入れたい方法です。また、農場の防疫体制として、農場の出入口や事務所にイソプロパノールのスプレーを設置して、出入りする車両に使用させるのはいかがでしょうか。そのうち業者のほうで持参することになればと期待します。
著者は最後に、「ハエ以外にも酪農業は取り組まなければいけない問題が山積していますが、サルモネラなど伝染病は日常の経営努力を無にしてしまいます。頑張って取り組んでいきましょう」と結んでいます。
PROFILE/ 筆者プロフィール
小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。