A2ミルク開拓記第2話:「牛乳を飲みたい人に、もう一つの選択肢を」
JOURNAL
不安をあおるのではなく、事実を見たい
牛乳については、いろいろな情報があります。良い面を伝える情報もあれば、不安を強くする情報もあります。だからこそ、酪農家自身が、落ち着いて事実を見ていくことが大事だと思います。
Jミルクの「牛乳の栄養と機能 ~2023年版~」では、牛乳のたんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム、ミネラル、ビタミンなどが整理されています。牛乳には栄養的な価値があります。これは、私たち酪農家が胸を張ってよいことです。
また、Jミルクの「お腹ゴロゴロはなぜ?」では、牛乳を飲んだ時のお腹の不快感について、乳糖不耐の仕組みが説明されています。乳糖が小腸で十分に分解されない場合、大腸で水分量やガスの発生に関わり、ゴロゴロ感や下痢につながることがある、という整理です。
大事なのは、牛乳の価値を守ることと、飲みにくさを感じる人の声を聞くことは、対立するものではないということです。牛乳を一方的に悪者にする必要はありません。反対に、不安を感じている人を「気のせいだ」と片づけるのも違うと思います。
酪農家としては、牛乳の良さを伝えながら、消費者が何に不安を感じているのかを知り、科学的に分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて考える。その姿勢が必要だと感じました。
A2ミルクは、牛乳を否定するものではない
そんなとき、遺伝改良の勉強会で「A2ミルク」という言葉を聞きました。最初は、正直よく分かりませんでした。海外ではA2ミルクという牛乳が売れているらしい。牛乳のたんぱく質の中にあるβカゼインにはA1型とA2型があり、その違いが消化のされ方に関係する可能性がある。そう聞いて、調べ始めました。
A2ミルクは、乳糖をなくした牛乳ではありません。牛乳アレルギーに対応した牛乳でもありません。ここは、誤解してはいけない大事な点です。
ただ、A2型βカゼインだけを含む牛乳では、A1型とA2型を含む牛乳に比べて、一部の消化器症状が少なかったという人を対象にした研究があります。また、A1型とA2型の違いは、βカゼインのアミノ酸の一部の違いであり、その違いが消化過程でのペプチドの出方に関係すると整理されています。
この話を知ったとき、私は「これは普通の牛乳を否定する話ではない」と感じました。
むしろ、牛乳を飲みたいのに、なんとなく不安で遠ざけている人。お腹のことが気になって、牛乳や乳製品を避けている人。そういう人たちに、もう一度、牛乳を見直してもらうきっかけになるのではないか。そう思ったのです。

牛乳を飲みたい人に、もう一つの選択肢を
酪農家にとって、牛乳は毎日搾るものです。けれども、消費者にとっては、数ある食品の中から選ぶものです。そこには、思った以上に距離があります。
その距離を埋めるには、「牛乳は良いものだから飲んでください」と言うだけでは足りないのかもしれません。消費者が何に不安を持っているのかを知り、科学的に分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて、正直に伝えていく必要があります。
A2ミルクは、魔法の牛乳ではありません。すべての人のお腹の悩みを解決するものでもありません。けれども、牛乳の価値をもう一度考え直す、一つの入り口にはなると思っています。
そして、生産者の立場から見ると、A2ミルクは単なる商品名ではありません。牛の遺伝子を調べ、A2A2の牛を把握し、交配を考え、牛群をつくり、搾乳や出荷で混入を防ぎ、消費者に信頼される形で届けていく。つまり、これは酪農の現場そのものに関わる話です。
私がA2ミルクに興味を持った理由は、普通の牛乳を否定したかったからではありません。牛乳を信じてきた酪農家として、牛乳に不安を感じている人の声に戸惑い、その声にどう向き合うかを考えたからです。
牛乳の価値を守るために、そして広げるために、A2ミルクという新しい選択肢を、酪農家自身がきちんと理解する必要がある。今はそう考えています。
次回は、私がなぜ「A2ミルクは思いつきではなく、検査と牛群づくりの話だ」と考えるようになったのか、酪農現場の視点からお話ししたいと思います。
参考資料・出典
1. 一般社団法人Jミルク「ファクトブック 牛乳の栄養と機能 ~2023年版~」。牛乳の栄養バランス、たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウムなどを整理した資料。
2. 一般社団法人Jミルク「お腹ゴロゴロはなぜ?」。乳糖不耐の仕組みと、牛乳の飲み方に関する基礎情報。
3. Giribaldi M, Lamberti C, Cirrincione S, Giuffrida MG, Cavallarin L. “A2 Milk and BCM-7 Peptide as Emerging Parameters of Milk Quality.” Frontiers in Nutrition. 2022;9:842375. A1・A2βカゼイン、BCM-7、A2ミルクの基礎を整理したレビュー論文。
4. Ramakrishnan M, Eaton TK, Sermet OM, Savaiano DA. “Milk Containing A2 β-Casein ONLY, as a Single Meal, Causes Fewer Symptoms of Lactose Intolerance than Milk Containing A1 and A2 β-Caseins in Subjects with Lactose Maldigestion and Intolerance: A Randomized, Double-Blind, Crossover Trial.” Nutrients. 2020;12(12):3855. A2型βカゼインのみを含む牛乳と、A1・A2を含む牛乳を比較した二重盲検クロスオーバー試験。
