こんにちは! 十勝ではまとまった降雪から一気に雪景色に変わり、本格的な冬が始まったと実感しています。除雪は暗い時間の作業になる場合も多いと思いますので、くれぐれもお気をつけください。
今回は、牧草の播種時期について取り上げようと思います。
この数年、十勝では「秋が長い」なんていう言葉を良く聞きます。実際に、10月以降の気温が高く、根雪(北海道では、雪が古、地面が見えなくなる状態が定着したら「根雪」と呼びます)となるのも遅いため、牧草の播種時期をどんどん遅くしている場面をよく見ます。
牧草播種の限界で言うと、十勝では8月下旬~9月上旬ごろが目安とされていますが、実際にはもう少し遅く播いても、翌年綺麗な牧草地になっている事例を見かけます。牧草の播種時期が遅くなると作業にも余裕ができるため、良いことだと思う反面、令和7年のように秋の気温が一気に下がってしまった場合のリスクもあるため、難しい面があるなと感じます。
そのなかで、巡回中に見つけた圃場を三つ紹介します。
① 令和7年9月5日播種「A圃場」:チモシー(TY)・オーチャードグラス(OG)・アルファルファ(AL)混播


A圃場の様子
9月5日に播種されたA圃場は、牧草の密度が高く、根張りも良好でした。
② 令和7年9月16日播種「B圃場」:TY・OG・AL混播


B圃場の様子
9月16日に播種されたB圃場は、播種直後に大雨が降ったため一部種が流れてしまっていますが、残った牧草の根張りはしっかりしており、分げつも1~2本確認できるため、ほとんどが越冬できる個体と判断できます。
③ 令和7年9月30日播種「C圃場」:OG・ペレニアルライグラス(PR)混播


C圃場
9月30日には種したC圃場は、3圃場の中では牧草の密度が低く、根張りも弱い印象です。草丈は3cmほどで、十分越冬できる10cmよりかなり短い状態です。
牧草の根張りを確認するために、実際に引っ張ってみました。A圃場は手ではなかなか抜けないほどの根張りでびっくりしました。
この3圃場を見て疑問に感じたことが、「なぜC圃場は9月30日というギリギリを狙って播いたのか?」ということです。なぜなら、C圃場の農場は草地作りを得意とする農家さんで、遅く播くリスクを知らない訳がないと思ったからです。
そのため、C圃場の農家さんにこの疑問をぶつけてみました。帰ってきた答えは、「天気が変わってきているから、新しいチャレンジをしないと」とのこと。
お話を聞いていくと、「播種が遅くなることでの越冬のリスクは知っていたが、ここ数年の秋の気温上昇を考えると、播種を遅くしていくチャレンジも必要だと感じた。もし、上手く越冬できなければ追播をすれば取り返しはいくらでもできるから大丈夫」とのことでした。
どちらかといえば慎重派の私はびっくり。ですが、変化する気象に対応するためにはこのようにチャレンジすることが必要なのだと感じました。
普及員の仕事をするなかでも、より確実に成功する技術や情報を発信したいという思いがありますが、デメリットをしっかり知ったうえでのチャレンジというのは必要で、新しい技術やこれからの常識になっていく源なのだと感じました。何より、「こういうことをしてみたい!」と語るC圃場の農家さんが本当に楽しそうで、次々出てくるアイデアに圧倒されました。
今回の経験から、「良い・悪い」で区別できないことがたくさんあるのだと学びました。A圃場・B圃場の農場のように、基本を忠実に守って確実に良いものを作っていく方も必要ですし、C圃場の農場のように新しいことへのチャレンジを惜しまない方も必要で、両方の方がいるからこそ、地域の技術が地域に沿った方向性にアップデートされていくのだと思います。自分も、新しいことを提案できるような引き出しをもっと増やしていきたいと思いました。
この3圃場の越冬後の様子も追っていきたいと思いますので、改めてこのコーナーでも報告できたらと思います。A圃場は見るからに1番草から収量が期待できそうですが、C圃場がどう巻き返すのか……! 選択肢としては、生き残った牧草を活かして早春に追播することや、もう一度播種し直すつもりで、早春にイタリアンライグラスや麦類を蒔く、1番草を収穫した後、適期に牧草を播種し直すなどが考えられます。思い切ったチャレンジをするためにも、デメリットやリスクへの対応方法を整理し、農家さんと一緒にチャレンジできる普及員でありたいと思います!
PROFILE/ 筆者プロフィール
住野 麻子Sumino Asako
北海号農業普及センター十勝南部支所で農業改良普及員として活躍中。
兵庫県神戸市生まれ。酪農に興味を持ち、大学進学を機に北海道へ。大学卒業後、十勝農業改良普及センターに就職。現在は酪農の面白さにはまり、牛漬けの日々を送っている。現場をより良くできる普及員となれるよう奮闘中。




