酪農役立ちコラム

ルミノブログ26:育成牛のコストを考える。実はコスパの良い投資?

JOURNAL 2025.12.04

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

 とにかくミカンとカキであります。犬の散歩で近所を歩き回っていますが、とにかく庭木に柑橘類とカキが植わっています。時折、バナナやキウイといった珍種も目にしますが、主役はオレンジ色の果実です。それらが、日一日と色づいていくのを目にする毎日です。北海道では目にすることのない果実が目を楽しませてくれています。

育成牛の生産コストを考える理由

さて、育成牛の生産コストについて考えてみました。長命連産を考えるときや初産分娩月齢の経済性を考えるときに、育成費用がどれくらいなのかを知る必要があるからです。

概算条件:出生〜初産分娩までの飼料費試算

ここでは出生から初産分娩までの飼料費を、北海道の自給粗飼料型と都府県の購入飼料型で概算しました。初産分娩月齢を24か月齢(730日)、2~24ヶ月齢の平均乾物摂取量を6.5kg/日とし、哺育期(0〜2か月)の代用乳・スターター費は両者で共通と仮定しました。

自給粗飼料型と購入飼料型の比較

そのうえで、粗飼料のDM単価と粗・濃比率のみを変えて比較しています。自給粗飼料主体の北海道では、粗飼料45円/kgDM、濃厚飼料110円/kgDM、濃厚飼料比率15%とすると、出生から初産分娩までの飼料費は約25万円、1日当たり約350円となりました。

一方、購入乾草と配合飼料への依存度が高い都府県では、購入粗飼料90円/kgDM、濃厚飼料比率30%とすると、育成期間を通した飼料費は約43万円、1日あたり600円/日となり、自給粗飼料型に比べて1日当たりで約250円高くなりました。

地域ごとの「肌感」として押さえておきたい目安

もちろん、実際の農場では分娩月齢やDMI、粗飼料自給率などにより大きく変動しますが、「北海道で1日300〜400円程度、都府県の購入飼料型では550〜650円程度」という肌感は押さえておいてよいと考えられます。

育成コストで最も重いのは“最後のひと月”

育成コストを考えるときに知っておきたいのは、最後のひと月がもっとも「食べる」時期だという点です。この頃の育成牛は体格も大きく、1日の飼料摂取量もピークに達しているので、育成コストの「重たいところ」といえます。

体重580kg前後の末期育成牛ではDMIが11kg/日に達しますので、自給粗飼料型で1日約600円、30日で約1.8万円/頭となり、購入飼料型では1日1,056円となり、30日では約3.2万円/頭になります。

育成牛は将来の稼ぎ手、費用は先行投資と考えましょう

初産分娩月齢を短縮する“経済的インパクト”

初産分娩月齢をひと月短縮するということは、この最もよく食べる高コスト帯を削ることを意味します。さらに、それが毎年、群の頭数分だけ積み重なっていくため、ボディブローのようにじわじわ効いてくるインパクトとなるのです。

早めるには“投資”が必要。ただしコスパは良い

もちろん、初産分娩月齢を早めるためには、それに見合う高栄養飼料の増給という「投資」が必要になります。それをせずに単なる“早産み”をさせると、小柄な母体による様々な弊害が生じかねません。

初産分娩月齢を早めるには、育成期間のどこかで配合を厚くするなど一定の先行投資が欠かせません。ただしこの追加コストは、最も飼料費の重い終盤1〜2か月を削って浮くエサ代と同程度かそれ以下に収まることが多く、「育成」という無収入期間の短縮効果も加わるため、総じてコスパの良い投資と言えます。

PROFILE/ 筆者プロフィール

泉 賢一

泉 賢一Kenichi Izumi

1971年、札幌市のラーメン屋に産まれる。1浪の末、北大に入学。畜産学科で草から畜産物を生産する反芻動物のロマンに魅了される。修士修了後、十勝の酪農家で1年間実習し、酪農学園大学附属農場助手として採用される。ルミノロジー研究室の指導教員として学生教育と研究に取り組むかたわらで、酪農大牛群の栄養管理に携わる。2025年4月、27年間努めた酪農大を退職し、日本大学生物資源科学部に転職する。現在はアグリサイエンス学科畜産学研究室の教授。専門はルーメンを健康にする飼養管理。最近ハマっていることは料理と美しい弁当を作ること。

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