水本牧場ブログ23:「3カ月までの管理、10歳まで」Part.5

JOURNAL 2025.06.06

 哺乳管理だけでなく、そのほかの飼養管理も含めた「哺育期」を重要視すると良いのではないでしょうか? というお話の続きです。

 私は、酪農において牛達は【水を飲む、草を食べる、寝る】ことが重要だと考えています。そこに【微生物】の働きが加わることが、さらに有効だと思っています。それは哺乳中の子牛であっても同じだと考えます。まずは、離乳に向けて私が注力しているポイント「微生物を利用した早期の胃腸作り」の考え方を紹介します。

早期からの胃腸作りの重要性

 生まれたばかりの子牛の胃は、まだ十分に機能していません。とくに、主要な消化器官である第一胃(ルーメン)は未発達で、母乳を消化するための第四胃が主な働きをしています。
 しかし、子牛が成長して粗飼料を食べるようになるにつれ、ルーメンを発達させ、さらにそこに共生する微生物叢を確立することが、その後の成長や健康に非常に重要になります。

栄養吸収の効率化

 ルーメンが発達し、微生物が確立することで、粗飼料に含まれるセルロースなどの難消化性炭水化物を分解し、エネルギーや蛋白質を効率的に吸収できるようになります。早期(若いうち)からルーメン発酵が活発になることで、成長に必要な栄養素を十分に確保でき、発育促進につながります。

免疫力の向上

 腸内には多くの免疫細胞が存在し、微生物はこれらの免疫細胞の成熟や活性化に重要な役割を果たします。早期に、多種多様でバランスの取れた微生物を形成することで、病原菌の侵入や増殖を抑制し、子牛の免疫力を高めることができます。

消化器系の健康維持

 安定したルーメン微生物は、消化不良や鼓腸症などの消化器系疾患のリスクを低減します。早期からの適切な飼養管理と微生物の導入は、生涯にわたる消化器系の健康維持に貢献します。

生産性の向上

 健康で丈夫な体を作ることは、その後の成長、繁殖、泌乳といった生産能力の向上に直結します。早期の胃腸作りは、生涯にわたる生産性の基盤となります。

微生物利用のポイント

 早期からの胃腸作りにおいて、微生物を積極的に利用することが有効です。

良質な初乳の給与

 初乳には、免疫グロブリンだけでなく、さまざまな微生物も含まれています。早期に十分な量の良質な初乳を給与することで、子牛の腸内に初期の微生物を形成する助けとなります。

ルーメン発酵を促す飼料の給与

 早期から質の高い粗飼料を給与することで、ルーメン壁への物理的な刺激となり、微生物の定着を促します。濃厚飼料とのバランスも重要で、ルーメンアシドーシスを防ぎながら、微生物の増殖に必要な栄養を供給する必要があります。

微生物の活用

 微生物製剤を投与することで、腸内の微生物バランスを改善し、ルーメンの発達を促進します。乳酸菌、酪酸菌、枯草菌、酵母などが一般的に用いられます。特定の微生物の増殖を促進する物質(オリゴ糖、食物繊維など)を飼料に添加することで、有用菌を増やし、腸内環境を整えます。

離乳と飼料への移行

 適切な時期に離乳を行ない、粗飼料、濃厚飼料への移行をスムーズに進めることで、ルーメンの発達を促します。哺乳中からの飼料設計も重要で、ルーメン微生物が効率的に働くための栄養バランスを考慮する必要があります。

 出生後1週間から2週間は、哺乳に注力しても良いとは思いますが、順調に離乳に向かうためには、そのほかの飼料管理が必要だと考えます。私は、哺乳牛であっても【水を飲む、草を食べる、寝る】を大切にしています。水、草、スターターなどの飼料管理が早ければ、余裕を持って計画的に離乳に進んでいけるはずです。本来は、粗飼料、濃厚飼料で十分に栄養が確保できる状態だからこそ離乳が可能になるはずだと思います。

 生後1週間から2週間過ぎても、水を飲んだり、草やスターターを食べたりできない子牛達がいる場合は、前回までにお話ししてきたように、分娩前の管理を見直してみることがお勧めです。
 元気で強い子牛が産まれてこそ、哺乳管理、飼料管理が計画的にスムーズに進められると考えます。

胃腸作りを意識した哺育管理

 子牛の出生後、早期からの胃腸作りは、その後の成長、健康、生産性に大きく影響する重要なプロセスです。とくに、ルーメンの発達とそこに共生する微生物の確立は不可欠であり、良質な初乳の給与、ルーメン発酵を促す飼料の給与、微生物製剤の活用などで、積極的に微生物を利用していくことが、丈夫で生産性の高い牛達を育てると考えて私は子牛を管理しています。

 このように、子牛達の将来を考えると、早期からの飼養管理と微生物利用での胃腸作りが重要ですよね。したがって、「哺育期」への投資こそが、将来の牧場経営を左右するのではないかと思います。

次回は、実際の取り組みを紹介します。

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PROFILE/ 筆者プロフィール

水本 康洋

水本 康洋

1983年、別海町の酪農家生まれ。
北海道立農業大学校卒で、帯広市の酪農ヘルパーを経て、実家に就農。
その後、実家を離れ、浜中町にて研修後、2016年4月に新規就農し、現在に至る。

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