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良い草を育てるための良い土と菌の話4:窒素廻戦

JOURNAL 2025.05.21

今村 太一

今村 太一Imamura Taichi

 前回の記事では、「植物が糖を使ってアミノ酸や蛋白質を作るには、窒素が必要だ」という話をしました。確かに窒素は、植物にとって“成長の燃料”とも言える重要な栄養素です。

 ではなぜ、“有機的な農業”では窒素に慎重な姿勢を取るのでしょうか?

 今回は、化学肥料としての窒素を廻る話。「メリット」と「落とし穴」を、整理してみます。

窒素のメリット

  • 成長を早める:草丈が伸び、葉色も濃くなる(光合成の促進)
  • 収量が増える:短期間での生育には非常に有効
  • 即効性がある:施肥設計がしやすく、反応も明確

 かつての僕自身も、窒素肥料を「植物の食糧」と誤解し、重宝していました。

でも、同時にこんな事実も

  • 土に留まりにくい
     土の粒子はマイナスに帯電しています。アンモニア態窒素(+)は反発し、施肥量の40〜50%が流亡すると言われています。つまり、投入した肥料の半分は流れる可能性が高いということです。
  • 土が酸性化する
     肥料が水に溶けてイオン化する過程で、土壌が酸性に傾きます。酸性土では生き物(微生物)が減り、嫌気性菌が優勢に。根が弱り、病害菌が活性化しやすい環境になります。
  • 窒素固定菌が働かなくなる
     外部から窒素を与えると、根粒菌などの“自分で窒素を貯める菌”が怠けてしまいます。
     さらに、炭素(堆肥や有機物)をエサにする菌はいなくなり、窒素をエサにする菌ばかりが増える。次第に土が“肥料依存体質”になっていきます。
  • 収量=経済向上ではない
     もしとある農場で「草が余って売っている」状態だとしたら。そもそも収量は必要でしょうか? 過剰施肥は植物に悪影響を与え、無駄な出費になりかねません。

経済的な視点:化学肥料と有機転換の比較

 令和6年度、北海道の化学肥料は平均4.7%値上がり。昨年4万4000円/haだった価格が、現在では約4万6000円。しかも「今後値下がりする」と思っている人ゼロに近いはず。

 さらに、海外からの仕入れ先はどんどん変わっています。原料の仕入れが不安定だということですね。

 一方、有機に切り替えると収量は概ね3割減。でも、減ったぶんの粗飼料を買うほうが、化学肥料より安い場合があります。
 例えば1haでチモシー4t採れる場合、有機転換で1.2t減ったぶんを購入するとします。
 1番草なら約1万4000円、2番草なら約9000円相当です。それに対し化学肥料は4万6000円。「収量維持のために施肥するより、買った方が安い」こともあるのです。
※数値出典:(株)ノーストレーディング様

 窒素を入れた畑は、初期の伸びは良いけれど、使い切ると栄養不足になります。なぜなら、菌がサボるから。とてもじゃないけれど、エグくて噛めない草になります。

 反面、森の草木に「肥料切れ」がないことで、有機が証明されている気がします。

まとめ:窒素を使うかどうかではなく、「どう使うか」

 窒素は悪者ではありません。でも、短期的な成果のために、土の力を削るなら本末転倒です。「今、この植物は何を必要としているのか?」「この畑には、どんな施肥が経営的に有効か?」と問い直すことが重要です。

 「反転」させて、糖・菌・有機物の循環が整えば、窒素は不要になり、土は回復していきます。「肥料なしは怖い」と自分が思っていたり、「収量がないことは悪」と、ご近所さんに言われるのなら、それらはあなたを縛る呪いだと私は思います。
 一度呪いを祓ってから、窒素と向き合ってみるのもいいのかもしれません。

PROFILE/ 筆者プロフィール

今村 太一

今村 太一Imamura Taichi

標茶町を拠点に、土壌改良資材の販売や周辺酪農家さんのサポートをする「soil」の代表。飼料会社に13年勤めた後、ドライフラワーやマツエク、ネイルのお店を経営。弟と一緒にsoilを立ち上げ、今は土や牛、人とのつながりを大事にしながら活動中。

経営やコーチング、微生物の話が好きです。「目の前の人に丁寧に」が大切にしている想いです。

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