
日本全薬工業株式会社は2月5日、栃木県那須町でZENOAQ酪農セミナーを開催し、酪農家や関係者約100名が参加しました。「移行期管理と繁殖」をテーマに、スティーブン・ルブラン博士(ゲルフ大学・教授)が「成功への準備〜移行期の健康と繁殖の関係性〜」と題して講演を行ない、司会は三好志朗氏(エムズ・デーリィ・ラボ・代表)、通訳は久富聡子氏(Dairy compass・代表)が務めました。

●カルシウム代謝と低カルシウム血症
ルブラン博士は、移行期の成功には適切な飼料・水の提供や快適な環境が不可欠であり、これが牛の健康や繁殖成績、生産性向上につながると強調します。
カルシウム代謝に関して、分娩後の牛は血中カルシウム(Ca)濃度が大きく低下することが知られており、従来は分娩直後の低Ca血症に注目が集まっていましが、近年は、分娩後4日目のCa濃度の回復が重要視されています。分娩後1日目のCa低下を防ぐことは生産性向上に直結しますが、4日目のCa回復が遅れる牛では疾病の発生率が高まり、乳量の低下も確認されています。
コーネル大学の研究によると、乾物摂取量や反芻の低下が潜在性低Ca血症と関連しており、これが繁殖成績にも影響を及ぼすことがわかっています。とくに、分娩後4日目のCa代謝と繁殖成績には強い相関があるため、適切な管理が求められると指摘しました。
Ca補給の方法として経口投与がありますが、これは分娩直後の低Ca血症には有効であるものの、4日目のCa回復には寄与しません。そのため、高泌乳牛や高産次牛へ選択的に投与することが効果的であると博士は述べます。
低Ca血症の予防策としては、まず「負のDCAD」を導入する方法があげられました。これは、カリウムの含量を低くし、塩素と硫黄を高めることで血液を酸性に傾け、カルシウムの吸収を促進するというものです。もう一つの方法として、Caバインダーの給与があり、これはDCADと同様に分娩前の飼料に添加するもので、胃内でCaやリンに吸着し、吸収を緩やかにしながら骨からのCa放出を促す役割を持ちます。カナダでは、DCADよりも高額ではありますが、モニタリングの必要がなく、どのような飼料とも組み合わせやすいという理由から、Caバインダーの活用が進んでいると説明しました。
●エネルギー代謝とケトーシス
次に、分娩後の乳牛におけるケトーシスの発生とその管理について説明しました。同博士はまず、多くの乳牛が分娩後にボディコンディション・スコア(BCS)が低下することに触れ、体脂肪の動員が進むことで肝臓でエネルギーとして利用されるほか、乳脂肪として排出されることを解説しました。その過程で一部がケトン体として血中に残り、少量のケトン体は乳生産に必要な要素である一方、過剰なケトン体の蓄積は乳量の低下や繁殖成績への悪影響を及ぼす可能性があると指摘しました。
とくに、ケトーシスが疾病として扱われる一方で、高いケトン体濃度を維持することが有益である場合もあるとし、診断のタイミングが重要であることを強調しました。分娩後のケトン体濃度が一定の閾値(1.2〜2.0mmol/ℓ)を超えると、乳量低下や繁殖成績に悪影響を及ぼすリスクが高まるため、早期の検査と管理が求められます。乳汁、尿、血液を用いたケトーシス検査の方法が紹介され、現場でのモニタリングの重要性が指摘されます。
ケトーシスの治療法として、プロピレングリコールの経口投与が推奨され、血中BHBを考慮しながら適切な投与量を調整することが有効であると説明しました。
同博士は、ケトーシスの治療よりも予防が重要であるとし、何か一つを予防するのではなく、日常的な管理の徹底が疾病予防につながることを強調しました。さらに乳牛を過肥にさせないこともポイントだと指摘しました。
PROFILE/ 筆者プロフィール

小川諒平Ryohei Ogawa
DairyJapan編集部。
1994年生まれ、千葉県出身で大学まで陸上競技(走り高跳び)に励む。
趣味はサッカー観戦。
取材先で刺激を受けながら日々奮闘中。
皆さんに有益な情報を届けるために全国各地にうかがいます。